ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ102→→→100:オライド寺院:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


陽が差し始め、俺は周囲の景色を畏れをもって見つめた。
岩壁の先端からは、広大なダナーグ沼沢地の全景が見渡せる。
鬱蒼と茂ったジャングルと点在する湖沼群は喩えようもなく美しい――
実際は有毒な瘴気が漂い、汚染された生物たちが蠢いているマグナマンド有数の危険地帯なのだが。
ペイドがスターガイダーの反応を得る前に、俺の野獣の視力は尖塔の輝きを捉えていた。
西の黒檀らしき木々が密生している辺り――その向こうに沼地に閉じ込められたオライド寺院があるのだ。
蔓を伝い、下の湿地へと降りようとした時、ガグリムの叫びが島の反対側から聞こえてきた。
湿地が白い濃霧で覆われ、寺院の姿は隠れてしまったが、スターガイダーの導きに従い歩を進める。


濃緑色の沼の周りには、幾重にも螺旋を無し巨大な円筒と化した蔦が群生していた。
円筒の一つ一つが更に厩ほども巨大な蜘蛛の巣の基部となっている――
糸が太綱ほどあることから察するに、蜘蛛は確実に馬数頭分より大きいと思われるが、その姿は無い。
沼を避け、スターガイダーの強く反応する方向へ進む。
霧が忍び寄ってきて道を覆った――その時、件の大蜘蛛が霧を抜けて現れた。
巨大な顎から毒液を滴らせ、近づいてくるそいつに背を向け、踝まで埋まる軟泥を蹴って走る。
大蜘蛛は黄色い剛毛に覆われた頭を下げ、俺とペイドを朝食にしようと追ってくる。
その重量にも拘わらず、泥濘の上を滑るような速度――まさに脅威の生体機構だ。



ナップザックの中に食糧があれば、34へ。
念波動を身に着けていれば、250へ。
食糧を持っておらず、念波動も身に着けていなければ、
蜘蛛と戦わなければならない。5へ。



両手脚で急制動をかけ、振り向き様に念波動を叩き込む。
このマグナカイ最大の奥義は、極限まで集中すれば物体を破砕することも可能だ。
本来であれば戦闘術と併用し、殺気を巧みに操る狩猟者たらしめる技なのだが――
苦し紛れに放った一撃が、糸の微弱な震動を察知して獲物を捕らえる、その鋭敏な神経を一時的に麻痺させたらしい。
仰向けに痙攣する大蜘蛛を後に、その場を離れる。
大蜘蛛――ダナーグのターンスパイダーを退け、更に歩く。
道々で何とか喰える茸を見つけ出し、噛み締めつつ進む――この辺りはマグナカイの上級狩猟術の賜物だ。
「夜までにはオライド寺院に着けるだろう……まだ見ぬ大物に出会さなければの話だが」
ペイドのあまり有り難くない御託宣があった。




オライド寺院が……



濃霧と絡み付く蔦の間から姿を現したのは、午後も遅くなってからだった。






四角錐の金字塔が聳え立つ――
一点の曇りもない白い輝石を積み上げた寺院は、完璧な均整を保っていた。
巨大な土台に支えられ、宝石が象嵌された黄金の彫刻群が並ぶ。
上層には無数の宝石が鏤められ、尖塔の頂点に据えられた楔形の水晶を虹色に輝かせていた。
寺院の麓では、沼の瘴気が寺院の放つ霊性に追い返されるように後退っていた。
五感に染み通ってくるかのような霊性の強さ、静謐さに打ち震える。
マグナカイの叡智のすべてが、俺に終着点の在処を教えてくれる。
間違いない――


オライドのロアストーンは、この前人未踏の寺院にいまなお眠っている。
戦士の帰還を待ち侘びているのだ。


瑞々しい生命力に溢れる灌木に守られるように、頑丈な琥珀の階段があった。
ペイドに続いて階段を登り、正三角形の扉へと向かう。
ペイドは出発直前に古マギから学んだ開門の複雑な手順を忘れていなかった。
巨大な扉が開き、遂に俺たちはオライド寺院の黄金の床へ足を踏み入れた。
7000年間誰にも踏まれていない床だ。




(つづく)