ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

ダナーグの獣人が迫る

【パラグラフ62→→→102:ガグリム:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


沼の主の出現に恐れをなして逃げ去った沼の住人達が戻ってきて、興味津々といった風情で闖入者――俺たちを見ていた。
大小様々な蜥蜴や蟾蜍の類も浮動する沼地の端へと集まり、俺たちが大した脅威ではないと判断すると、少しずつ近づいてきた。
霧雨に濡れた下生えを掻き分け、沼の住人達の啾々たる輪唱に急き立てられつつ、島の赤い岸壁へと辿り着く。
垂れ下がった蔦を手繰り寄せ、岸壁をよじ登る。
足裏の違和感――沼地の不確かな感触から火山岩の無骨なそれへの変化に、奇妙な安堵感すら感じる。
頂上に着いたのは、東ダナーグを覆う深紅の水平線に太陽が沈む頃だった。
微かな残光の中、膝の丈まで草で覆われた北への道が見える。


灰色の光を投げ掛ける満月の下、草を掻き分けて進む。
蛇行した道は再び密林へと入り込み、雑に造られた小屋の集落が見えた。
小屋の間で人影が動く――小柄なシルエットは明らかに人間と異なっていた。
「ガグリムだ」
ペイドの声には紛れもない恐怖が滲んでいた。
「ダナーグの獣人だ。逃げられる内に逃げておこう」


密やかに獲物に忍び寄る猫の動き――ガグリムたちは速やかに小屋から離れてきた。
体軀のバランスからすれば四足獣だが、驚くべき速さで二足歩行している。
ここは地面の起伏まで知り尽くした彼らのテリトリーなのだ――俺たちが全力疾走したところで、逃げ切る事は不可能だ。
直立した小型の猪を思わせる風貌――だが、血走って焦点の定まらぬ眼といい、灰色の唇から垂れ続ける唾液といい、どこか狂気が漂っている。
錆びた鉄剣を四本指で握り、刀身を舐め舐め間合いに近づいてきたそいつは、鬨の声とともに襲い掛かってきた。



ガグリム 戦闘力点23 体力点38


第一波を易々と殲滅する。
だが、圧倒的な戦力差を見せつけられても、同胞の仇を討とうとするガグリムの血に飢えた叫びが止むことはなかった。
どのみちこの場で戦い続けるのは自殺行為に等しい。
カイ・マントの隠しから火種 を掴みだし――今度こそ役に立ってくれ――地面に叩き付ける。
突然の閃光に追っ手の眼が眩んだ隙に、道端の茂みに飛び込む。
ガグリムの叫びが宵闇に轟く中、全速力で這い進む。
と、偶然にも集落を取り囲み、北へと続く道に転がり落ちた。数十年以上使われている形跡の無い道だ。
走り続けること1時間、ようやくガグリムのテリトリーから離れることが出来た。
休憩せずに歩き続け、島の北西の先端にある岩の岬に辿り着いた。
既にガグリムから受けた浅傷は完全に癒えているが、数時間眠って夜明けを待つことにする。



(つづく)