ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

ダナーグの変異・アナフェグが迫る

【パラグラフ333→→→91:アナフェグ:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


獣の噎せ返るような体臭が風に乗って流れてくる。
馬が恐慌を来し暴れ出したため、降りて抜刀する――と、鋭く嘶いて後退した俺の馬が、ペイドの馬に衝突した。
俺の馬の動揺が伝染したか、ペイドは怯える馬を宥めようとしたが、挙げ句大木の端が嫌な音を立てて割れた。
二頭の馬が霧深い深淵へと垂直落下していく――
ペイドは寸前で馬から飛び降り、裂けた木に指を滑らせながらも掴まった。
ペイドを救いに行きたいところだが、眼前に迫る獣がそれを許してくれそうにない。
やむなく半身を開き、剣を構えた腕を交差した状態で折り畳む。
剣尖を敵手に向け、ゆるゆると刀身を眼の高さまで水平に持ち上げていく――



アナフェグ 戦闘力点18 体力点50


念撃は通用しない(念波動は通用する)。
念バリアを身につけていなければ、毎ターン、戦闘のはじめに 戦 闘 力 点 を
2 点 引かねばならない。


カイ戦士の戦闘の極意は「速度」にあると言ってよいだろう。
戦闘で言う「速度」とは単純な動作の速さではなく「相対速度」を指す。
すなわち彼我の距離感を自在に操る――カイの先達は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」闘法を追求してきた。
一見すると優雅な動きのようだが、幾星霜に渡って研鑽を積まれてきた歩法と、限界まで鍛え抜かれた脚力に裏打ちされているのだ。
だが、今回の戦闘においてはそこに問題が発生する。
半ば折れかかった木橋という、不安定かつ跳躍はおろか直進しか出来ない足場。
思うように距離を空けられない俺に対し、アナフェグは体力に任せて突進し、熊のような鉤爪を振り回すだけで俺にダメージを与えうるのだ。


だが――
零距離からの神速の刺突――俺の刃が、アナフェグの脳髄を顎の下から貫いていた。
一瞬遅れて剛腕が虚しく空を斬り、梃子の原理で跳ね上がった刀身が蜥蜴めいた奇怪な頭蓋を縦に両断していく。
駆け引きも何も無い敵手だった。
指1本分の僅かな後退が明暗を分ける――後はアナフェグ自身の速度と自重が、そのまま処刑具となったのだ。


音もなく剣を引き抜き、更に後退する。
ダナーグの獣は己が死んだ事に気付かず猶も数歩蹌踉めいたが、血泡の混じった喘鳴とも断末魔ともつかぬ呻きとともに大木の橋から滑り落ちていった。
そして間一髪の所で、アナフェグと同じ運命を辿るところだったペイドを助け上げる。
無傷で勝ったにも関わらず、重い疲労感が全身を襲った。
地獄の主アガラシュの置き土産……斯様な怪物が、この先どれだけ立ちはだかるというのだろうか。
暫し動くこともできず、俺たちは全てを呑み込む深淵に見入っていた。


遠くから剣戟の音が谺してくる。
オジア軍との乱戦に巻き込まれる前に、モードリルの森深くへ入らなければならない。
背の高い木々は間隔を狭め、密生した低木は歩くうちに紺色の苔類に変わり、汚泥のようにブーツの底にこびり付く。
いつしか木々の隙間から白い濃霧が立ち籠め、辺りに冷気が入り込んできていた。


通過パラグラフ:333(戦闘)→197→31→91 治癒術の効果:+2点   現在の体力点:27点

(つづく)