ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ188→→→262:釣り銭の狼:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


旅籠の厩に馬を入れると、母屋の方から菓子を焼く甘い香りが漂ってきた。
火で着衣を乾かすよう促されつつ敷居を跨ぐ。
旅籠の主人は黒い眼帯で右目を覆った、堂々たる黒髭の持ち主――樽のような胴体の下半分はカウンターの向こうだ。
「お二人さんとも、何か食べ物が欲しいんじゃないかね……全部で15ルーンだが」
豪傑然とした主人は両手を広げ、焼き菓子とビールを勧めてきた。
特段腹が減っている訳じゃあないが、こういう話の糸口から貴重な情報が得られるものなのだ。
「これで足りるだろう」
革袋から金貨4枚を取り出し、カウンターを滑らせる。
主人は御丁寧に金貨を一枚一枚囓って、本物かどうか調べた。
「贋金じゃあないようだ…どうかお気を悪くなさらずに…前に贋金を掴まされて以来、つい疑い深くなっているものだから…」
弁解がましく主人はもごもごと呟いたが、その手を喰う俺ではない。
金貨1枚=4ルーンが交換レートの相場だ。
――釣り銭1ルーンは払ってもらうぜッ!
「……ところで、この金貨はデッシのものじゃあないかね?」
主人は噂に聞く魔術国家デッシの話が聞けると期待して、眼を輝かせた。
「取り敢えずその前に釣り……」
「恐らくデッシの金貨だろうが、マグナマンドの通貨は大抵ガーセンの市場に出入りしている……俺の知ったことじゃあない」
――空気を読まないペイドの存在を忘れていた。
出身国と任務から話題を逸らそうとしてバケロスが口を挟む。
「それよりあんたは何処の生まれだ?見たところタレストリア人では無いようだが、何時祖国を離れたんだ?」
「おお、よくぞ聞いてくれた」
主人は自分の最も好きな話題――ボー国のカードンで生まれたラーディン氏――自分の事だ――の一代記を延々語り始めた。
……そんな話は心底どうでもいい。
俺の無言の祈りが天に通じたのか、ラーディンがようやく一息つく。
「でラーディンさんよ、さっさと釣り銭……」
「ルーコスの話を聞いてないか?」
……またお前かよッ!
「その話なら、この辺りにも知れ渡っているさ」
ラーディンが不満げに鼻を鳴らす。
「だが、ゼグロンの勝利は奴の実力以上のものだ。アダマス卿の軍がやって来れば、奴はザナールの掘っ立て小屋に大人しく引き籠もっていればよかったと後悔するだろうよ」
「ラーディンよ、そうとは限らんぞ?」
そう言いつつ赤ら顔の農夫が躙り寄って来た。
発言の機会を奪われ、またしても釣り銭を貰い損なって苦虫を噛み潰す。
こいつ……新手のスタンド使いか……ッッ!
「儂の妹は、ルーコスとテンタリアスの間の全ての街を破壊するまで、ゼグロンは手を緩めないと見ている」
「お前の星占いが出来る妹は確かに賢いだろうさ。だが、そのご大層な望遠鏡やら星座表やらで、吉兆の類を見たことがあるか?」
ラーディンが反論すると、旅籠の客――近隣の商人や農夫のようだ――から同意の呟きが異口同音に漏れる。
「そうかも知れん……だが、儂の妹の星占いが間違ったことがあるか?」
重苦しい沈黙が旅籠を覆い、客はそれぞれ食事や商談に戻った。
ラーディンさえももう口を開かない。
「……ちょ……お釣り…………」
虚しい抵抗を試みるが、あえなく黙殺される。



農夫の妹が何処に住んでいるか、農夫に尋ねるか。262へ。
旅籠を去り、ザーロへ向かうか。318へ。


そして駄目押しの選択肢。
毎度毎度のことながら、ゲームブック世界において、本文に記述のない行動は発生しないのだ。
……たとえそれが、原書版から訂正されず残りっぱなしの、単純な釣り銭ミスであったとしても。
「ところであンた」
ラーディンが不思議そうに此方を向く。
「さっきから何故パクパク口を開いているのかね?」
「死ね」
腹いせに椅子を壁際まで蹴飛ばし、一撃の下に粉砕した。
おのれ……
この恨み、晴らさでおくべきか……
遂にこの狼の冒険譚に妹キャラが初登場するらしいが……ぶっちゃけ知ったことじゃあない。
どんな属性の超妹だか知らんが、釣り銭分の情報だけはキッチリバッチリ喋って貰うぜッ!


(つづく)