ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

貌に傷のある悪党が飛び出してきた

【パラグラフ347→→→321:死者の白銀:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


「開門!開門!」
ペイドが怒鳴ると、くたびれ顔の警備兵らは不平を零した。
「何だってそんなに急ぐ。人の生死に関わるとでも言うのか?」
もう一人が鼻で笑いかけ……硬直する。
青い鋼鉄の剣を抜いたペイドが、馬上から脅すように通行証 をちらつかせた。
「その返答……エバイン女王への反逆の証か?」
「め、滅相もない」
震え上がった警備兵が速やかに落とし格子を引き上げる。
起伏の多い土埃だらけの丘を越え、俺たちはザーロの街から全速力で逃走した。
次なる目的地、国境の街シアダを目指すのだ。
耕作に向かない荒れ地を走ると、灰茶の雑草が向こう臑を撫でた。
時折、頭上を舞う猛禽が鳴くほかは、周囲の大気は静寂に満ちている。
昼過ぎまでに丘の中腹まで辿り着く。
丘陵地帯の地面は固く、嵐の海のようにうねっている。
平野部で見られた丈の高い草もほぼ見られなくなり、痩せた低木がところどころオジアの不毛地帯から吹く乾いた風に靡いている。
道は狭い谷を縫って走り、廃鉱の坑道近くに石造りの小屋が建っている。
近づくと、小屋の窓から人影が見えた。
「誰かいるか?」
………返事は無い。
薄暗い小屋は、表と裏に部屋が一つずつ。
警戒し、気配を殺しているのだろうが、取り敢えずペイドに裏に回るよう無言で合図する。



予知を身に着けていれば、94へ。
予知を身に着けていなければ、298へ。


無論俺は予知など身につけていない。
マグナカイの予知は、高確率で目前の危険や罠の存在を教えてくれる。
そして……
この教えの最大の特質は『身につけていなくても先読みができる』点にある。
この選択肢そのものが、小屋に潜む脅威を知らせているのだ。
扉を開けた途端、手斧を持った男――眼が落ち窪み痩せた頬には、無惨な傷痕が走っている――が現れた。
男は呪詛を叫びながら、俺の脳天目掛けて斧を振り下ろそうとしていた。
説得の選択肢も、その猶予も与えられない。
修羅の巷にあっては、戦うしか生き延びる術は無いのだ。



悪党の鉱夫 戦闘力点17 体力点25 


仮に上級狩猟術を知らぬ弱凡のカイ・マスターならば、更に不意打ちで戦闘力点−3のペナルティだ。
だが、仮にそれでも戦闘比は+10――
上級狩猟術を身につけた俺の場合、実に戦闘比+11以上のアドバンテージを得る。
生来の狩猟者たる狼と荒くれの鉱夫では、天と地の開きがあった。 眠っちまいそうな程スローモーな斧の一撃をかわし、腰溜めに抜刀する。
蹈鞴を踏んで擦れ違った鉱夫は、何が起きたのかも分からぬまま倒れ臥した。
恐らく苦痛を感じる暇も無かっただろう。男の死に顔には勝利を確信した残忍な笑みが張り付いていた。
そして待つこと数分。
裏の部屋へ続く扉を剣でブチ破り、ようやくペイドが姿を現した。
「……何をそんなに手間取っていたんだ?」
肩で息をしている相棒に尋ねる。
日頃キレ易いバケロスの戦士は、なぜか逆上することもなく無言で俺を手招きした。
裏の部屋、その天井まで届かんばかりに部屋を埋め尽くす小さな袋―― その一つを開けてようやく得心する。
この袋の山全てのひとつひとつに、銀塊が詰め込まれているのだ。
あの鉱夫が必死だった理由がこれで分かった。
小屋の中だけでも、王侯の身代金に匹敵する財産だが――
廃鉱として見捨てられた鉱山から、再び鉱脈を見つけ出してしまったのだ。
人知れず銀塊を独占できる滅多にない好機という訳だ。
俺たちは招かれざる客どころか、生かして置けない存在だったのだろう。
そして。
「正当な報酬だと思うが……こいつをどう思う?」
「異存はない。馬鹿正直にエバイン女王に報告する必要もないしな」
利害一致。
ニヤリと嗤う(実に不気味な)ペイドと共に、ありったけの銀の袋 をナップザックに押し込んだ。
ロープ も捨て、4つの銀の袋 をパンパンになるまでブチ込んでご満悦。
タレストリアも捨てたもんじゃあないな……と認識を改めた。



通過パラグラフ:(219)→347→85→298(戦闘)→321  治癒術の効果:+3点   現在の体力点:34点

(つづく)