ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

ケズールの手紙

【パラグラフ80→→→266:暗号文:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


「一体何事だ?」
騒ぎが鎮まったと見てようやく階段を駆け下りてきた船長が悲鳴を上げた。
乗客たちが船倉酒場で繰り広げられた人外の闘争の結果を怖い物見たさに集まってくる。
「損害賠償を要求する!」
船長が怒声を上げた。
「損害はざっと数百ルーンだ!今すぐ払うか…さもなくば財布を取り上げて身包み剥がしてくれる!」
ペイドは近くのテーブルからテーブルクロスを取り、ケズールの首を包み、紐で縛った。
無言のまま船長目掛けて生首の包みを恐るべき勢いで投擲する。
「ヒッ…ヒィィッ!」
ペイドは更にトロストの亡骸の近くから半ば焦げた死刑宣告書を拾い上げ、生首の包みを抱えて腰を抜かした船長の眼前に突き付ける。
「こいつでこのチンケな筏の修繕でもするがいい。残りはこの兵士の家族に渡せ…さもなくば…お前の首も叩き落としてやる!」
死刑宣告書に目を通す内に、船長の顔にゆっくりと皮肉な笑みが浮かんだ。
「そうか、かの魔道師ケズールは私の船で破滅したのか…」
「ケズールが何処で下船する心算だったか知らないが、恐らくその時には船に乗っている人間は全員殺されていた筈だ」
俺の言葉に船長は考え込み、計算高い光が目に宿った。
「多分船倉酒場はこのままにしておく方がいいのだろう。この有名な悪党が息絶えた場所を見たい者が大勢いるだろうしな?」
船長が命じると、船員達がケズールの首の無い胴体を運んでいった。



本を調べるか。
本はそのままにしておくか。
予知を身につけていて、チュータリーの階級に達していれば。


生憎とマグナカイの予知は身につけていない。
だが冒頭にあった『教えの向上』の項目から、どんな内容か推測はつく。
カイ・マスター・チュータリーの階級で得られる教えの向上は『魔力の探知』だ。
すなわちこの本は黒魔術師の所有物であり――所有者以外に発動する罠があるとも限らないため――慎重に本を開く。
紙ではなく黒い金属で出来ているが、天鵞絨のように薄く柔らかい。
複雑な単語や記号が、夜明けの海面で輝く陽光のように、蛍光のインクで刻まれている。
虫や魚を思わせる奇妙な模様は見たことがないものだが、邪悪なものを感じる。
本を捨てようとした時、本の背表紙に何かが挟んであるのが気づく――小さな羊皮紙の巻物だ。
広げてみると、ジャーク語――ダークロードの創造した奉仕種族の亜人間の言語が書かれている。


ちなみに『マグナマンド・コンパニオン』に所収のジャーク語辞典によりジャーク文字をアルファベットに拾い直すとこうだ――
『THARRO DER EG
ZAZGOG KOR SHEZAG.
TUJA EKAR TOR
NADOKNAR DOGEZ.』 


再び羊皮紙を丸め、カイ・マントの隠しに滑り込ませる。(アクション・チャートに特別な品物として記入)
邪悪な蜘蛛の残滓が燻る悪臭が、船倉酒場に重々しく立ち籠めた。
ペイドと共に上の甲板へ行き、船員たちが死体を片付けるのを見守る。
黒魔術師の首の無い死体には煉瓦がくくりつけられ、そのまま河に放り込まれる。
トロストは急拵えの樫の棺に寝かされ、フェンで丁重に降ろされることになり、船長をはじめ乗客たちが冥福を祈った。


激しい雨と不慮の死のために、予定が大幅に遅れることになった。
船員達は遅れを取り戻すべくゴーカスに鞭を振るうが、目覚ましい効果は無かった。
船牽き道が泥濘と化し、毛が雨水を含んで重くなったせいで、これ以上早くは走れないのだ。
次の寄港地――船着き場に着いたのは、午後も遅くなってからだった。
土手に建った今にも倒れそうな待合所と脇から張り出した古い木の桟橋があり、端の方は水位を増した河にほぼ浸っていた。
平凡な農夫が二人、船から降りていった。
二人は目撃した超常の戦闘について声高に話していたが、船が再び動き出すにつれ、その声も聞こえなくなっていった。


河の向こうには肥沃な平原が広がり、首の長いオクリルの群が上空を飛び、河岸の巣に帰っていく。
オクリルの美しい鳴き声が平原に谺する。
会話は無い。
俺とペイドは甲板に立ち、無言でそれぞれの物思いに耽っていた。
これから先の探索の旅、いずれ必ず直面するであろうダナーグの恐怖――
そして目前に迫る危険について、俺は思いを巡らせていた。
ペイドには伏せておいたが、黒魔術師の隠し持っていた巻物の文意はこうだ――


『ザーロの剣の寺院に赴き、新たなる闇の大公に謁見せよ』――




通過パラグラフ:(46)→80 →312 →255 →266  治癒術の効果:+4点   現在の体力点:35点(全快)


(つづく)