ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ206→→→80:魔道師ケズール:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


ペイドの剣尖がお尋ね者の黒魔術師の心臓に達するまであと一歩の距離――
忽然と出現した巨大な黒蜘蛛の一群が船倉の床一面を覆い、黄泉を流れる忘却の河のように彼岸と此岸を隔てていた。
蒼白く膨らんだ腹から剛毛に鎧われた骨めいた八本脚が突き出している――呪詛によって召喚された、この世のものならぬ存在だ。
人肉を何より好む地獄の蟲たちは複眼を滑光らせ、顎を大きく開けて次々とペイドに襲い掛かった。
弓は使えない――恐怖の余り分別を失った乗客たちが一度に階段へ押し寄せ、船倉酒場は狂乱の巷と化しているのだ。
ペイドが毒液を滴らせる異形の黒蜘蛛の群れに徐々に追い詰められていく。
床に倒れ込んだトロストの姿は何処にも見えなかった。


不意に黒魔術師が俺の方を振り向いた。
呪詛を口蓋の奥で唱えながら、両手で複雑な印を結ぶ。
床を蹴って跳躍し、太陽の剣を抜こうとしたその時、空中で全身の動きが凍りついた。
呪詛が完成する方が速かった――『凍結』の概念を俺という存在の根底に叩き付けられたのだ。
転倒こそしなかったが、髪どころかカイ・マントまで霜が覆い尽くし、眼球の動きまでもが凍りついていくッ!
呼吸の度に氷塊を吸い込んでいるかのような感覚――意識が朦朧とし始めていた。
マグナカイのネクサスを習得していれば抵抗のしようもあったが、手脚の感覚が急激に失せていくのをどうすることもできない。
この極めつけに危険な敵――俺の最大の武器が超高速からの攻撃であることを瞬時に看破し、最も効果的な策を打ってきた。
魔術師でありながら戦闘の機微を熟知している敵が、嘲笑を浮かべ凍える俺の死を更に確実にしようと剣を抜き――


その時、突然熱波が押し寄せてくる――全身に感覚が甦ってきた。
ペイドが灼熱の焔を喚起し、黒蜘蛛の群れ目掛けて解き放ったのだ。
地上の生物には見えなかったが、どうやら現出した焦熱地獄には馴染みがなかったらしい。
黒蜘蛛の八本脚が萎びて縮み、表皮の爆ぜる音とともに引っ繰り返って、貪欲な焔の貪るままになっていた。
形勢逆転を悟ったか、ケズールの冷酷な表情に焦燥の影が過ぎった。
既に俺は太陽の剣を抜き、黄金の輝きを黒魔術師に浴びせている――この剣は暗黒の魔力を喰らうのだ。
だが黒魔術師が戦意を喪失することは無かった。
剣を自らの顔の前に上げ、声にならない呪詛を唱えながら、俺の心臓目掛けて鋭い刺突を繰り出してくる。



魔道師ケズール 戦闘力点28 体力点45


念撃と念波動は通用しない――黒魔術師が唱えたのは、地獄の勢力から強力な防護を得るための呪詛だ。
魔力喰らいの剣を前にして魔術による攻撃をあっさり捨て、白兵戦に切り替えたのだ。
またも先手を打たれた格好だが、敵ながら一体どれだけの修羅場を潜っているのか、想像もつかない。
とは言え今回はペイドがともに戦うため、失う体力点は通常の半分になる。
「7」――跳躍からの陽動を仕掛け掠り傷を負うが、ペイドががら空きになった敵の肩口を抉る。
「8」――更に背後から迫る俺の太陽の剣が、存分に黒魔術師の胴を薙ぎ、
「9」――一拍遅れてペイドの剣が袈裟懸けに斬り降ろしていた。
初めてとは思えない完璧な連係攻撃が決まったにもかかわらず、黒魔術師はまだ生きていた。
総身の経絡を巡る邪悪な魔力が、辛うじて生命を繋ぎ止めているのだ。
「6」――ペイドに牽制させ、跳躍して剣を持たない方の腕を斬り飛ばす。
出血から考えて、常人ならば戦闘どころか死に至っていても不思議ではない。
やはり経絡の中枢を物理的に破壊しない限り、この黒魔術師を殺すことはできないのだ。
「2」――更に跳躍して旋回、俺の剣が黒魔術師の鳩尾を深々と貫き、心臓の位置まで斬り上げる!
文字通り強制的に生命の源を切断され、お尋ね者の魔道師ケズールは遂に死んで船倉の床に倒れた。


「死体に近づくな。こういう悪の司祭は、死後も復讐の為に甦ることがあるそうだぜ……生き返られても面倒だからな、こいつで首を斬り落としておくか」
ペイドは剣を振り上げ、有言実行――一閃で首を斬り落とした。
黒魔術師の閉じられていた瞼が突然開き、憎悪に彩られた瞳が現れたが、妖光はすぐに消え、くすんだ灰色に戻った。
「これでいいだろう……トロストは何処だ?」
上衣の袖で剣を拭うペイドとともに見回すと、焔で浄められたトロストの亡骸が、灰の中に埋もれているのが見えた。
ペイドは自分の荷物から毛布を取り出してトロストを覆い隠し、クヌーラの言葉を唱えた。
――戦いに倒れた者へのバケロスの追悼の言葉だ。



通過パラグラフ:(65)→206 →291 →159(戦闘) →46  治癒術の効果:+1点   現在の体力点:32点

(つづく)