ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ73→→→206:ハニー・ロッジからの乗客:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


ハニー・ロッジの村は小さい――川岸に小屋が二つ、納屋と言うには小さい物置、石の監視塔が固まって建っているだけだ。
嬉しそうに村の子供達が雨の波止場で父親を迎えた。フェナの市場で買った釣り竿や玩具の狩猟弓などの土産を期待して、目を輝かせている。
謎々伯爵を含め8人がハニー・ロッジで降りたが、乗ってきた客はたった一人だった――広鍔帽の痩せた男だ。
腰に幅の狭い剣を吊し、片手には服と同じ漆黒の革表紙の本を持っている。
男は船員に料金を払い酒場へ降りようとしたが、階段の上で立ち止まり、灰色の冷たい無機質な眼が俺の視線を受け止めた。


鉄鉤のような精神力が俺の心を走査しているのを感じる。
予期せぬ強力な攻撃――咄嗟に防御したが、マグナカイの念バリアを身につけたカイ・マスター・チュータリーでなければ、思考と記憶の全てを読み取られていただろう。
「大丈夫か?下へ行って嵐から身を守るとしようぜ」
ペイドの言葉に頷き、再び船倉酒場へと降りていく。
兵士のトロストが俺たちを迎えたが、構わず先刻の男を探す。
俺たちのテーブルの反対側の影になっているテーブルに一人着き、黒表紙の本を読んでいる。


トロストが残っていたビールを飲み干し、俺の視線を追ったかと思うと、新しい乗客を見るなり息を呑んだ。
「あの逆五芒星!」
トロストは鋭く息を吐いた。
あいつだ……魔道師ケズールだッ!」
上衣から取り出した巻物をテーブルの上に広げると、見るからに冷酷残忍な男の似顔絵が描かれていた。




死 刑 宣 告 書

魔道師ケズール

モガルイスの裏切りの魔道師

ダズドスカルの禁教の指導者

 合法的な権力によってここに宣告する。

 タレストリアのフリーランド全域で悪事を働いた黒魔術師の卑しい行いに対し、
魔道師ケズールの首を持ってきた者に対し、報奨金1万ルーンを与える。

タレストリアのエバイン女王の命による     MS5060年


「一財産作る好機だ……私に手を貸して、賞金を山分けしないか?」
トロストが死刑宣告書に両拳を置いて囁く。
報奨金1万ルーンは確かに魅力だ………………だが。
謎々伯爵から金貨15枚をせしめ、所持金は金貨42枚。
そして俺が所持できる金貨の上限は50枚。
現時点で俺にメリットは無いのだ。
ましてや荷船に紛れての先を急ぐ探索行――お尋ね者の黒魔術師を倒し、その首を報奨金に換えられる状況ではない。


「何ですとォォ!!!」
トロストがいかにも信じられないと言わんばかりのジェスチャーで仰け反った。
「あの鼻水を垂らした墓荒らしが怖いというのか!君の助けが無くとも、私一人で殺るッ!」
俺に反論する暇も与えず、トロストは席を蹴ってお尋ね者に近づいていった。
ケズールは相変わらず黒表紙の本を読み耽っている……ように見える。
トロストは剣を抜き、もう一方の手で死刑宣告書を差し出した。
「お前はこの地で不法行為を働いた魔道師ケズールだな………………」
トロストの略式即決裁判にも、お尋ね者の黒魔術師は石像のように動かない。
「………………エバイン女王陛下の権限によりお前を………………」
トロストは途中で不自然に言葉を切った。
ケズールがようやく眼を上げた時、トロストの命令口調が抑えた呻き声に変わった。
ケズールの硝子玉のような両眼から多彩の妖光が放射され、深淵への窓と化した眼窩に奇怪な影が踊る。
苦悶の絶叫が上がる――




トロストの顔面の肉が融け崩れ、不気味な泡に覆われていた。


全身の皮膚を瞬時に沸騰させられたトロストが想像を絶する激痛に膝を折ると同時に、船倉酒場に黒魔術師の残酷な嘲笑が響いた。
「すっこんでろ狼ッ!あのドグサレは俺が『始末』するッ!」
ペイドが剣を抜き、椅子とテーブルを蹴り倒して接敵する――
――刃が届く距離に達する寸前、黒魔術師が更なる恐るべき呪詛を唱えた。


(つづく)