ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ138→→→200:魔術王の最期:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



灼熱の刃が漆黒の水晶を両断した刹那、封じられていた悪しき霊が解き放たれた。
だが、嘲りの声を上げる間もなく、剣尖から蛇の舌のように延びた黄金の焔がその存在を絡め取り、灼き尽くしていく。
その器もまた、火花を放ちながら粉々に砕け散り、飛礫と化してザーダの玉座を取り囲む黄金の深淵へと呑み込まれていった。
玉座の間の中央に顕現した黄金の光球が、鋭く回転しながら更にその質量を増していく。


「おのれ、カイ戦士!」
玉座に姿を現したザーダが叫び、白金の杖を振り翳したが、いかな大魔術師の呪詛も、最早何の意味も成さなかった。
魔力を呼び起こす傍から、黄金の光の渦に呑み込まれてしまうのだ。
地の底深くから、床を揺るがす大音響とともに、灼熱の溶岩が天蓋すれすれの高みに吐き出された。
幾本もの炎の柱が床を突き破り、玉座の間を崩壊させていく。
数百年の闇の生を閲しながら、初めて味わう死の恐怖に蒼白となったザーダが後退る。
ザーダはやおら黄金の玉座の前に跪き、五芒星の象嵌を撫でさすった。
断続的な爆発の轟音を圧し、幾千もの鈴の音が響き渡る。
玉座の真上の空間から、小さな蒼い光がザーダを指して降りてくる。
蒼い光に包み込まれたザーダの肉体は不可視の手に掴まれ、虚空へと上昇していく。
玉座に蓄積された僅かな魔力で、此処ではない何処かへと転送されようとしているのだ。
そこは恐らく、ザーダ本人の魔力が最大限発揮される領域でもある筈だ。
ヘルドスのロアストーン へ手を近づけると、善のエネルギーが心身を癒していく。
全身が灼け付くような感覚とともに、極限の疲労に摩耗していた五感が引き戻され、周囲の状況を見極める余裕をもたらした。



ロアストーンを取り、輝く蒼い光の中へ踏み込むか。118へ。
ロアストーンを取り、鋼鉄のトンネルへ逃げるか。250へ。


知れた事だ。
そこが地獄の涯てであろうと追い詰め、狩り殺す。
狼の矜持にかけて――死んでいった戦士たちの誇りにかけて。
黄金に燃え盛る太陽の剣を手に、蒼い光の柱へと踏み出す。
ここより先は――死域。


蒼い光の中にあって、俺もまた重力の軛から逃れ上昇していく。
光の中心に留まろうと藻掻くザーダの足元にまで迫った時、恐怖に引き攣った顔が此方に向き直った。
焼け焦げた長衣から異様なまでに滑光る短刀を抜き、熱で火膨れの浮いた手に構えた。



支配者ザーダ 戦闘力点23 体力点45


「お前は死ぬのだ……死ぬのだ……死ね!!!」
鴉めいた狂おしい叫びとともに、無数の魔力の薄刃――手にした短刀の複製――が虚空に現れ、止め処ない驟雨となって降り注ぐ。
カザン・オード を支配する魔術王の最大の攻撃。
力の源泉たらしめていたドゥームストーン を失ったとはいえ、この刃に触れることは死を意味する。


マグナカイの念波動を発動させ、戦闘比を+11にまで高める――乱数表の結果は「7」。
視認不可能な速度で撃ち出され、触れる物を燃え上がらせる毒を帯び、鋼鉄をも斬り裂く百万の刃が悉く空を切った。
と同時に、背後の死角に潜み、機を窺っていたザーダが苛烈な陽光の下に晒される。
「言った筈だ……死ぬのは、お前だと」
絶対の死を確信していたにも関わらず、なおも無傷の俺を目の当たりにして驚愕の余り硬直するザーダを無視し、剣を大上段に振りかぶる。


「太陽よ!!!」
咆哮とともにソマースウォード の剣尖から放たれた黄金の奔流が、ザーダを押し流し呑み込んでいく。
万物を灼き尽くす光の煉獄からようやく視力が戻った時、玉座の主は影すらも残さず地上から消滅していた。



(つづく)