ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ294→→→290:厳正懲罰隔離房(ウルトラ・セキュリティ・ハウスユニット):(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


鉄の監視台から一望すると、眼下の迷路が巨大な脳髄の皺のように広がっていた。
至る処に、ザーダが悪魔的想像力で生み出した、致命の罠が仕掛けられているのだ。
迷路の上には、巨大な鎖で連結通路が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、暗闇に溶け込んでいる。
魔力の濃霧に隠されていたが、監視と罠のメンテナンス、更に予備兵力の投入を可能にするためのものだろう。
ともあれ通路を全力疾走し、階段を駆け下りて迷路の境界になっている壁を駆け抜けた。
遥か頭上で警報が鳴り響いている――俺の脱出がザーダに知られたのだ。



右へ曲がるか。92へ。
左へ曲がるか。20へ。
方向認知術を身につけていれば、330へ。


何の根拠も無いが折角だから左折する。
これが正解ならゲームブッカーの勘の面目躍如と言ったところだ。
トンネルはカザン・オードの奴隷たちを収監した独房群に続いていた。
痩せ細り、煤けた顔が鉄格子に押しつけられ、哀しげな眼が俺を喰い入るように見つめている。


前を通過する度に発狂した奴隷たちが喘ぎ、呻き声を上げる。
狂躁の巷と化した独房の端に、他の囚人と異なった鉄格子だけの檻があった。
中には藁敷きの床で男が眠っている。
男の金髪と衣服には血と汚物が染み付いていた。
近くの壁に打ち込まれた釘から、独房の鍵を取り、扉を開ける。
檻の軋む音で目を覚ました男は、悪臭を放つ隅の方へ転がっていき、身を竦ませた。
男の両眼は凍った硝子のように曇っていて、剥き出しの皮膚は疱瘡に冒されているのが見て取れた。
ソマーランドではタカディー――「監獄腐れ」とも呼ばれる症状だ。

「傷つける心算は無い……信用してくれれば助けてやれる」
男の両眼を覆うように掌を置き、マグナカイの治癒術のエネルギーを送り込む。
掌を離した時、男の眼は最早曇ってはおらず、猫のように強い輝きを放っていた。
「眼が見える……奇跡を起こして頂いたお礼をどうすればよいのでしょう」
俺が答える前に、トンネルの向こうから複数の足音が聞こえてきた――ザーダの警備兵だ。
「私に付いて来て下さい。見つかったら二人とも殺されてしまう」


(つづく)