ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ270→→→294:水力脱獄:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ジョビジョバ
……例によってザカーンの両眼と口腔から止め処なく溢れ出る水量は半端無かった。
既に水位は爪先立ちすらも難しくなっていたが、俺にはとある確信があった。
水牢のご多分に漏れず、ザカーン像の何処かに水量を調節する仕掛けがある筈なのだ――深呼吸し、像の近くまで潜水する。
水圧でザカーンの御尊顔は崩壊し、穴の奥に大きなノズルとレバーが見える。


剣尖がレバーを押し下げると同時に、逆流する水の勢いに腕が巻き込まれる。
ザカーンが貪欲なまでの速さで室内から水を吸い上げているのだ。
やむなく剣を手放した途端、水面へと急速浮上する。


数分後。
水位の下降はザカーンの崩壊した顔面の高さまでで止まった。
その時、残った水の勢いで扉が開き、急斜面のトンネルに投げ出された。


眼に入った水を拭い、周囲を見渡す。
長大なトンネルの両壁が、巨大な繭状の物体で埋め尽くされていた。
卵型の扉が閉じられ、金属音が徐々に大きく響き渡っていく。
薄暗いトンネルの向こうで、何者かが動く気配がした――漆黒の複眼と大顎を持った巨大な蟲だ。
俺の体臭に食欲を感じたのか、興奮の余り紫色の泡を噴きつつ這ってくる。


徐に銀の笛 を取り出し、吹き鳴らす。
常人を遥かに凌駕するカイ・マスターの耳にも聴き取れない笛の音が、蟲の繊細な神経を破壊したらしい。
粘液に濡れた短い節足が虚空を彷徨っていたかと思うと、蟲はやおら後退し始め、その頭部が霧の天蓋へと消えていった。


耳を聾する轟音とともに、蒼い光――致命的な破壊の魔力だ――が蛇のように蟲の首らしき部位に巻き付いていた。
周囲に肉の焼ける悪臭が満ちる。
蟲は驚くべき生命力で数分間のたうち回っていたが、死の舞踏が終わる頃、魔力の霧は薄れていた。
頭上に現出した暗闇の中に、監視台の付いた通廊が見えていた。



(つづく)