ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ119→→→227:死の握撃:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



カイの追跡術――カイ・マスターにしてみれば初歩的な技術だが、タビグの足跡を辿ることは容易だ。
先程全力疾走してきたトンネルを逆走し、地上へと近づいていきながらも疑問は尽きない。
“トラッカ”とは何を意味しているのだろうか?
ダクスを始めとする怪物の群れは何処から放たれたのだろうか?
そしてタビグがあれ程恐れた、ザーダの暗黒の力とは?
聞こえてきた悲鳴が、思考を中断させた。
悲鳴の主――タビグが目前の階段の上に現れた。
顔を覆った手の間から鮮血が滴り落ちている。
倒れる勢いで階段の上から転落しようとした瞬間、緑色の巨大な手が現れ、タビグの背中を掴んで引き戻した。
背後の暗闇へとタビグの姿が消え、その絶叫だけがやけに大きくトンネルに響いた。


小刻みな跳躍を繰り返し、階段を上りきると、通路を戻っていく巨拳の中に、タビグの腕だけが微かに見えた。
抜刀と同時に、狼の速度で地を這うように迫る。
全身を圧搾される断末魔の絶叫と、タビグを掴む死神の手の低い蠕動音が反響して聞こえてきた。





 
巨大な握り拳 戦闘力点10 体力点42 
三回戦までに敵の体力点をゼロにできれば、291へ。 
 



咆哮とともに跳躍し、硬質の疣に覆われた巨拳へとソマースウォード の輝く刀身を振り下ろす。
巨人の手首から斬り落とされたと思しき右拳は、不可解な生命力と知覚力を備えていた。
至近距離から繰り出される巨大な鉤爪はさながら突撃槍の一撃だ。
乱数表は「5」…薄皮一枚斬らせつつも、圧倒的な質量の差と相対速度が、14点ものダメージを叩き込むッ!
敵の体力点の1/3…まだ足りない…狙うはクリティカルのみ!
更に鉤爪を足掛かりに跳躍、天井を蹴って雷光のごとき斬撃が巨大な鉤爪の一本を大・切・断ッッ!


何処から発せられたのか、この世のものならぬ苦悶の声がトンネルを揺るがした。
残りの四指は発条が弾けるように開き、タビグを血塗れの床に落とした。
巨大な手が暗闇へと消え去ると同時に、タビグの傍らに跪く。



マグナカイの治癒術が、狼の生命力を死線を彷徨うタビグに分け与え、顔面と喉の重傷を塞いでいく。
失血は止まり、脈拍も強くなったが、それは一時的なものに過ぎなかった。
どのみち背中の致命傷は既に急所に達しており、マグナカイの治癒術を以てしても救う見込みは無かったのだ。
最後の刹那、タビグは意識を取り戻した。
「迷路に注意しろ……緑色……は死だ」
戦士は永遠の眠りに落ちる前に、そう言い残した。


ああ。
せいぜいこの紛う方無き死の城塞で生き延びてやる。
二度言うまでもない。ザーダはブチ殺すだけのこと。奴の死は僅かに延期されているに過ぎないのだ。
そして古マギの長老どもから毟り取った金貨で、お前の妹を必ず故郷に連れ戻す。
狼の矜持にかけて誓う。


俺は虚ろなタビグの両眼を閉じてやり、故郷スロビアの戦士の葬礼に従い、剣を彼の胸の上に置いた。


(つづく)