ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ12→→→119:タビグ:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



「このまま此処にとどまれば死んだも同然なのであります」
珍奇なストーンランド訛り――戦乱の王国らしい軍隊調――丸出しで三等兵が断言した。
「さあ“トラッカ”が放たれる前に安全なトンネルへ行くであります。我々の臭跡を辿られれば、ザーダの飼う獣の群れが追ってくるであります」
発言の説得力云々以前に色々突っ込みたいところではあったが、俺とて異論は無かった。


俺は三等兵に先導され、複雑なトンネルや幾つかの部屋を通り抜け、坂道と階段を下り、地底深くへと入っていった。
赤褐色の岩陰に入り口の大部分が隠れた黴臭い小部屋で小休止するまで、互いに一言も口を利かなかった。
「トンネルに入ってどのくらいでありますか?」
「あー……まだ2、3時間かな」
「な、何だってー!!」
吃驚して大袈裟に仰け反った三等兵は、発条仕掛けのごとくお辞儀しつつ絶望の表情を見せた。
「地表近くにいたと分かっていれば、ダクスに向かっていったでありますのに!」
三等兵は方言で絶叫しつつ頭蓋を必要以上に激しく左右に振ったかと思うと、露骨に落胆した様子で床の一点を凝視し始めた。
「自己紹介が遅れたのでありますな…私はタビグ。スーエンティナの傭兵であります」
「……スロビア西方の出身か……」


突如として三等兵は聞いてもいない自己紹介を始めたが、いかにも不自然なタイミングだった。
いわゆる少し不思議っ子的な掴みで会話の主導権を握ろうというキャラ造りの一環なのだろうか。
それにしては会話が断絶している感は否めないが、本場英国の特殊な嗜好の紳士方は恐らくこういうキャラに萌えるのだろう。
ある意味侮り難い――だがいい加減俺も慣れているのだ。対策は出来ている。
我が心既に空なり。
空なるが故に無。
無を以て術の極みに達す――


分泌された脳内麻薬によりいわゆるアヘ顔で無の境地に至りっ放しの俺。
時折脊髄反射的に頷くと、再びタビグは聞くも涙の身の上話を延々と喋り始めた。
一年程前、彼の妹が乗った船がリボ島沖で海賊に襲撃され、彼女はグゾールの奴隷商人サドザールに捕らえられた。
要求された身代金は金貨千枚。
タビグは金貨を集め、妹を救おうと心に決めた。さもなければ戦士の命など無意味だ。
かつて聞いた眉唾物の噂を疑うこともなく、タビグはヘルドスへと赴いた。
金貨千枚と引き換えに、カザン・オード に蔓延る邪悪を滅ぼす。
古マギの長老たちは以前にも同様の申し出を何度も受けていたので、タビグの要求する金額を飲んだ。
成功を祈りつつ彼が送り込まれたのは――奇怪な合成獣が徘徊し、随所に死の罠が仕掛けられた魔城だった――という訳だ。


「……という訳なのであります」
「フゥーン」
カザン・オード を支配するザーダを倒すのは独力では無理であります」
「……と言うと?」
ようやく話が興味のある方に転がってきたので、枝毛をチェックする手を止め聞き返す。
「なぜならザーダの力は古マギ人が思っているより遥かにドス黒く歪み、凶暴になっているのであります。私もザーダを倒そうとはしたが失敗したのであります」
「………………」
「二度捕らえられ、二度とも迷路から逃れたでありますが…今は兎に角この悪夢の檻から逃げ出したいのであります」
「……あの迷路を逃れる術があるのか?」
「運良くザーダの手から生き延びては来たでありますが、いずれは殺されてしまうのは確定的に明らかであります」
「そうはならない。俺がザーダを殺してやる。必ず」


タビグは答えず、剣を抜いて入り口まで行き、外の様子を窺った。
「幸運を祈るであります!」
彼はそれだけ言うと、部屋を出て行った。
「ちょwwwおまwwww迷路の攻略情報」
慌てて呼び止めようとするが返事は無く、既にタビグの姿はトンネルの向こうへと消えていった。


(つづく)