ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ187→→→12:黒犬獣:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



トンネルは大空洞へと緩やかに下っていく。
狭い石の通路がこの天然の大広間の中央部分へと続き、その両脇から黄色の煙が螺旋状に立ち上っている。
ここでトンネルは東西に延びる別のトンネルと合流しているようだ。
硫黄の刺激臭と左右に横たわる暗黒の深淵――さながら地獄の光景だ――に警戒しつつ進む。
合流地点まで行くと、右手の通路から人間のものと思しき足音が近づいてきた。
次第に大きくなる足音とともに、革鎧を着た兵士が姿を現した。
ブーツの金具が急停止と同時に火花を散らす。
兵士の痩せ細った顔を滝のような汗が流れ、目は恐怖に怯えている。


弓で先制攻撃を叩き込んでもよかったのだが、ここは剣を構え、様子を見る。
兵士が通路の途中まで来ると――複数の獣の気配が近づいてきた。
どうやら兵士は背後に迫る捕食者に追われていたらしい。


背筋が凍るような低い呻吟が続いて聞こえてくる。
業苦に耐えるように喰い縛られた歯列の隙間から言葉にならぬ呪詛と腐臭を洩らしながら、漆黒の獣が現れた。その数――三匹。
見た目は直立した大型の猟犬――その漆黒の皮膚は瀝青のような粘液に覆われており、前脚の水掻きのある四本指から鋭利な鉤爪が伸びている。
黒犬獣の目瞬きひとつしない両生類めいた瞳が爛々と輝き、俺と兵士を交互に睨め付けていた。
兵士は震える手で剣を振り回して威嚇したが、獣たちには大した感銘を与えなかったようだ。
悪意に満ちた忍び笑いを洩らしつつ黒犬獣が躙り寄ってくると、兵士は恐慌を来し、俺の方へと逃げてきた。
「警告!彼奴らは我々を生きたまま喰おうとしているのであります!」
………おお。
人類創世以来最も切迫しているであろうコメント。
「ついてくるのであります!」
否応なく兵士と共に踵を返し、トンネルを全力疾走するが、黒犬獣はしぶとく追い縋ってきた。
事態の急展開に脳の処理がついていかないが、今やゲームブッカーとしての直感とカイ・マスターの本能だけが頼りだ。



獲物を追いつめた歓喜に忍び笑う
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通路の手前で兵士は急に立ち止まり、両腕を広げて俺を制止した。
「隠し罠なのであります!」
兵士は床の石板を指して叫んだ。
「畜生!何て酷い所なのでありますか?ザーダの手から逃れられる所は何処にも無いのでありますか?」
血に飢えた歓喜の叫びが聞こえ、振り返ると黒犬獣は予想以上に近づいていた。
兵士が石板を無事飛び越えたのを確認し、剣を抜く。
「飛べ!頼むから、飛び越えてくれであります!」
獲物を追いつめたと確信した残忍な笑みを浮かべ、黒犬獣が紅い眼を光らせながら、今にも襲い掛かろうと迫る。
「強がりはよすのであります!」
兵士はそう叫び、トンネルの中へ消えていった。



ダクス 戦闘力点27 体力点35
背後には罠があるため、戦闘から逃亡することはできず、
敵を殺すまで戦わなければならない。


跳躍し一刀の下にダクスの首を刎ねる(乱数表8)。
着地の勢いを殺さず死角から接敵し、二匹目の胴を薙ぎ払う(乱数表2)。
この黒犬獣の挙動――奇妙に人間臭く、姿形に見合っていない。
恐るべき反応速度、完璧な連携攻撃、鋭利な牙と爪、過剰なまでの殺戮衝動――だがそれだけだ。
所詮は人間が想像する「残虐な獣」――狩猟者の姿を模しただけの殺戮機械など、俺にとっては与しやすい相手でしかない。
強烈な自己保存の本能を持つ野獣ならば、俺の今使ったようなちゃちなフェイントには掛からないのだろうが……。
三匹目の攻撃を意に介さず、しぶとい二匹目に集中打を浴びせ、完全に動かなくなったと見るや再び跳躍する(乱数表1)。
急旋回しつつ脳天唐竹割りの斬撃――頭蓋骨のそれではなく、軟らかい腐泥を斬ったような感触が手許に残った(乱数表6)。




残忍な捕食者がにじりよる
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一筋の煙が獣の死骸――そもそも本来の意味での生命があったのだろうか――から立ち上り始めた。
突然、その一つが爆発し轟々と音を立てて燃え上がる。
石板を飛び越え、熱く毒性のある煙から逃れると、残ったダクスの死骸は怒れる悪魔のように身を捩る地の底の焔に呑み込まれていった。


トンネルを先に進み、バサゴニアの火酒、クールシャーを一息に呑み干す。
ダクスの群れはカイ・マスターに8点ものダメージを与えていた。
酒精が全身を巡り、体力点を4点取り戻す。


更に進むと、先程の兵士がいるのが見えてきた。
剣の柄を握り締め、奇襲に備えているようだ。
俺の生還に気づくと、無精髭の生えた窶れた顔に微笑が浮かんだ。
「君が勇敢なことを認めるのであります。腹を空かせた三匹のダクスを相手に戦った男などいなかったのであります」
兵士は立ち上がり剣を納めると、握手を求めてきた。


(つづく)