ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ283→→→221:飢餓潮流:(死亡・11)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ソマースウォード の放つ超高熱――遣い手たる俺以外の全てを灼き尽くす黄金の焔。
陽光の下ならずとも、その熱は小動物の全身の血液を瞬時に沸騰させるには十分に苛烈だった。
肉を灼く悪臭とともに、数千匹もの断末魔の絶叫があがる。


とはいえ、第一波を殲滅したに過ぎないのだ。
次の行動を熟考している暇が与えられた訳ではない。
選択肢は二つだ。



左手の岩礁を乗り越えて走るか。336へ。
小船を湖に戻し、入り江を離れるか。117へ。


だが、鼠の大群は驚くべき行動に出た。
土塁のごとく積み重なった仲間の死骸に群がり、貪り喰い始めたのだ。
そして新たに死んだものは俺を包囲する死骸の輪となり、徐々に狭まってきている――
――共喰いだとッッ!?
生きとし生けるものを悉く灼き尽くす絶対の熱死圏にあって、飢餓が死の恐怖を凌駕しているというのか!
半死半生となりながらも数匹が、鑿のような鋭い門歯で俺の手脚に噛みついてきた。
既に瀕死の鼠たちは何らダメージを与えることなく死んだが、最早一刻の猶予もならない。


尖った岩で手や膝が傷ついたが、痛みも忘れて岩礁を乗り越え、砂浜へと向かう。
鼠たちの餓え狂った鳴き声とは違う音が聞こえてきた――木の裂ける音だ。
恐らく小船が喰い尽くされ、跡形も無くなるのに1分とかかるまい。
狼の脚力に任せ砂浜を疾駆するが、油断すると肌理の細かい黒砂に足首まで埋まってしまうため、一歩一歩を踏み出すのに脚に相当な負担が掛かる。
振り返ると、鼠の群れが濁流と化して俺を呑み込もうとすぐ背後に迫っていた。
このままでは、カザン・オード の岩の基部に達する前に追いつかれてしまうだろう。


だが。
突然、鼠の鳴き声が聞こえなくなった。
どういう訳か黒い大群は砂浜の端で止まっているのだ。
鼠たちは皓歯を剥き出しにし貪欲な眼で俺を凝視しているが、やはり一匹として動こうとしない。



何故これ以上追って来ない?


――その答え――ソマースウォード を凌駕する恐怖――が、3メートル程前方で俺を待ち受けていた。


(つづく)