ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ165→→→パラグラフ335:支配者ザーダ:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ようやく意識を取り戻したとき、眼前の光景が夢かと錯覚した。
そこは巨大な円形劇場のように円周上に幾重にも観客席が巡らされた、大理石の大広間だった。
中央に穿たれた大空洞からは漆黒の鉄塔が聳え立ち、地の底深くから燃え上がる炎が周囲を舐め上げている。
観客席を埋め尽くす無数の人影からは、フードに隠れてはいても冷ややかな視線が突き刺さってきた。
奴らの表情を窺い知ることはできないが、その非人間的な嘲笑は肌に粟を生じさせるに十分だった。
遠くで銅鑼が鳴り響き、観客席から物悲しい歌声が聞こえてきた。
この場から一刻も早く逃げ出したいのはやまやまだが、俺の両腕は頭上の壁に嵌められた青銅の環に縛り付けられている。
フードの下で無数の目が炎のように燃え上がる


「裁判を!」
声とともに大広間がどよめいた。
長衣をまとった観客たちが立ち上がると、鉄塔にまとわりつく炎に照らされて、硬質の光を放つ黄金の玉座に座る白髪の痩躯が見えた。
その頭上には水晶が二つ漂っている――一方は磨き抜かれた金剛石のようで、中心に黄金の焔が燃えている。
もう一方は墓穴の漆黒であり、内部に生き物めいた黒い靄がたゆたっていた。
魔力を帯びた二つの水晶の間で善と悪のエネルギーが衝突して蒼い焔が上がり、玉座に影を落とした。


「侵入者よ」
玉座の声は洗練され、極上の絹の艶を帯びていたが、毒を含んだ氷のように響いた。
「お前は殺意を秘めてカザン・オード へやって来た。エルジアンの臆病者どもに、私を殺せば、褒美をくれると約束されたのではないかな?」
「さあ……どうだろうな?」
声の主は徐に玉座から立ち上がって口々に異議を唱える下僕たちに向き直り、奇妙な仕草で両腕を差し伸べた。
人ならざる観客たちの声は更に大きくなり、より不気味な抑揚へと変化していった。
だが、喧噪を他所に、俺の眼は玉座の上に漂う黄金の水晶にひたと据えられていた。
これが今回の探索の旅の目的、ヘルドスのロアストーン なのだ。


「評決は、下僕たちよ?」カザン・オード の支配者は突如眼を見開き、荒々しく叫んだ。
「有罪です!ザーダ様!」
「罰は?」と暗紫色の長衣を纏った支配者――ザーダが更に問う。
「迷路に入れろ!」群衆が叫ぶ。「迷路に!」
エルジアンの古マギ評議会が恐れ、魔力の檻に封じ込めた、カザン・オード の邪悪。
その全容が今、俺の前に現れようとしていた。



ソマースウォード を持っていれば、335へ。
ソマースウォード を持っていなければ、264へ。


長衣に身を包んだ、背の曲がった老人が俺の縛られている環へと近づいてきた。
老人は訓練された者の動きで手際よく俺を武装解除していく。
近くにいた矮人がソマースウォード を受け取り、恭しく頭上高く掲げる。
支配者ザーダが何事か言いかける前に、黄金の焔が唸りを上げて剣の柄から燃え上がった。
矮人は悲鳴を上げながらなお燃えさかる太陽の剣を落とし、半ば焼失した指先から煙を上げる両手を振り回した。
俺が思わず狼の笑みを漏らしたのを見るや、長衣の老人は疣に覆われた拳を握り締めた。
「なまくらと申したか」
「せ…拙者さような事は……」
動けない俺の顔面目掛けて老人の虎拳一閃(体力点を1点失う)。
虎眼流を嘲笑うことなど不可能であった――とか言ってる場合じゃあない。
なぜなら今、ここで――俺の体力点は0になったからだ。
ソマースウォード を持つことに対するささやかなペナルティ――だが今の俺には文字通りの命取りだ。


「此奴を迷路に連れて行け」白髪の支配者ザーダが命じた。「その剣は私に」
ソマースウォード は空中に舞い上がり、蒼い霧の紗幕がかかった黄金の玉座へと引き寄せられていった。
鎖に繋がれたまま大広間から引きずり出される時、ザーダの残酷な声が執拗に追いかけてきた。
ザーダさん、もうやめて下さい!
その狼とっくに……死んでますから!!!



『ローンウルフ11人目 再起不能(リタイア):死因 爺ィの虎拳で死亡→To be continued 』

(つづく)