ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

簡単な仕掛けだ……三角を数えれば良い

【パラグラフ146→→→パラグラフ180:死者の広間:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



兵士の死体に目を落とし、奇妙なことに気づいた。
この死体は外傷を負っていない。
俯せに倒れている状態にしては、致命傷になるような刀傷も矢傷も無いのだ。
屍臭が無ければ、眠っているものと思ったかも知れない。
死因を調べるべく、死体を引っ繰り返す。


死体の顔からは眼球が無くなり、その痕が黒い深淵となって虚空を睨んでいる。
舌は黒ずんで腫れ上がり、嘲笑うかのように歪んだ口の端から、緑がかった液体が滲んでいた。


ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!
この死体……どんな方法で始末されたのか皆目分からねーが……
確実に言えることは……俺はこの死体に触っちまっているッッ!


慌てて死体を離れ、隠し階段を駆け下りる。
黴の生えた石壁に挟まれた狭いトンネルへと出た。
どうやら想像していた最悪の罠――パープルヘイズウイルス伝染性の疫病は仕掛けられていなかったらしい。
廃油と混ざり合った汚水が、音を立てて滑らかな床を流れていた。
水の流れる方向へと向かうと、黒い鉄格子が嵌った通路に出た。
鉄格子には奇妙な意匠の飾り板が取り付けてあるのが目を惹いた。
もしやと思い左手の壁を見ると、真鍮製の指針が付いた錆びたダイヤルがある。
ダイヤルの円周を、時計の文字盤のように1〜40までの数字が取り囲み、その下にはレバーがあった。
恐らく、正しい数字を選ぶか、或いは幾つかの数字の組み合わせで鉄格子が開く仕掛けだろう。


マグナカイの方向認知術を駆使し、鉄格子の奇妙な三角形の飾り板を調べる。
三角形の飾り板は九個の小三角形からなり、一辺がそれぞれ小三角形の三個分に相当する。
この飾り板に描かれた三角形の数を数え、同じ数字をダイアルに入力すれば、鉄格子が開く、と言う訳だ。
鼻歌混じりに正しい数字を打ち込み、こういう場合のお決まりの文句を唱える。
「オープン・セサミ」


金属と金属が軋る音が通路に反響し、暗闇の何処かで大きな歯車が動き出した。
天井へと緩やかに上がっていく鉄格子の尖った先端を素早く潜り抜け、奥の通路へと急ぐ。
滑る床の敷石の上を歩いていくと、鼠が鳴き声を上げて逃げていった。
鼠は濡れた床を音を立てて引っ掻き、無毛の尾で床の表面を覆う緑色の粘液に筋を作っていく。
通路が広くなったところでぶつかった下り階段を半分方降りると、天井に群がっていた蝙蝠に出くわした。
不意の闖入者に驚いた蝙蝠たちは、けたたましく鳴き交わしながら俺の周囲を飛び回り始めた。
皮の翼をはためかせ、剥き出しの部位を狙って針のような牙で噛みついてくる――

(つづく)