ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

影の戦士

【パラグラフ27→→→パラグラフ146:影の戦士:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



泥だらけの石垣を苦労してよじ登ると、カザン・オード の崩れ落ちた本丸が一望できた。
過去に大規模な火災があり、内部が焼け落ちたのだろう。
石造りの物だけは焼け残ってはいるが、全てが蔓草や黴に覆われている。
本丸の中央に大広間があり、緑色の燐光が明滅するごとに、呪詛にも似た何かが虚空から滲み出していた。
それ以上見ていられず、焼け爛れ、夥しい有毒の茸に覆われた木製の扉の向こうに目をやる。
鋭い棘のある曲がりくねった樹木ともつかぬものが、罅割れた敷石の上に、針金を巻くように蔓延っている。


中へ入ろうとした瞬間、頭上を何かが動いていく気配がした。
入り口近くで、その気配――影が凝って形を成し始めるのを固唾を飲んで見つめる。
やがて影は、燃えるような赤い瞳を持つ獣じみた形相の戦士の姿を成していった。
と思いきや、影の戦士は旋風と化し、一瞬で俺の背後を取った。
咄嗟に振り返ると、影の戦士が咆哮とともに鎖を振り下ろさんとしている。
鎖の先端には、複数の棘のある鉄球――狼牙鎚だ!


俺の無防備な頭蓋を破砕すべく、死の鉄鎚が振り下ろされる――


俺は牙を剥いて嘲笑った。
マグナカイの念波動を身につけている俺にとって、この程度の幻影を見破るのは容易いことなのだ。
影の戦士――オーダコンは強力な魔術師によって創造された単なる幻影だ。
大広間の扉に近づいた者の前に姿を現すように仕掛けてあるのだろう。
「失せろ」
つい今し方まで生あるもののように見えたオーダコンは、夜霧となって消えていった。
後に残ったのは、本丸の廃墟に谺する憤怒の叫びだけだった。


大広間の罅割れた石の床を忍び足で進む。
俺の全身の筋肉と神経は、常に罠と伏兵に備えられた状態になっている。
一定間隔で聞こえる水滴の音と風の音が、この大広間の侘びしさを更に増していた。
棘のある植物が絡み合って壁を這い、古びた額縁や黴の生えた織物に巻き付いている。
朽ちた暖炉の上には、アナーリ国のものと思しき幅広剣が下がっている。
刃こぼれした剣尖の先を見ると、暖炉の陰に何かがある。
近づいてみると、それは人間の兵士の死体だった。
その背後には石板があり、死体に押し開けられた格好になっている。
石板の下の隠し階段が、見通せぬ暗闇へと通じていた。


(つづく)