ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ19→→→パラグラフ2:バオー・ケミカルファンタジーフェノメノン:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



隊長とともにあくまで優雅に、ぶっちゃけた話デュークに変な歩法を習ってきたセレビッチ気取りで下船する。
今や死魚のごとき虚ろな瞳の割りに、顔だけはさながら角砂糖をもらう寸前のセッコみたく物欲しげな風の俺だ。
店舗前の巨大な石壺が近づく。
マグナマンド世界に冠たるリューエンの薬種問屋、その目印だ。
店主を呼びだした隊長が回復薬のリストを手渡すのも尻目に跳躍する。
無意味かつ華麗に月面宙返りを決め、着地の寸前でガラス棚に指1本を張り付け、そのまま宙に浮いた状態で静止した。
俺がパリスヒルトンッ面で波紋疾走するのも当然。
砂漠の国バサゴニアでは名前倒れのマダム・ハッパの在庫切れのお陰で有り余る金を所持しながら1本しか買えなかった。
前回レムに到達したときは3枚しか金貨を持たずさめざめと泣いて暮らした。
だがッ!!
今日の俺は違うッッ……ひと味違うんだぜェェェェーッッ!!
遂に、カイ戦士の冒険史上初……
貯めに貯めこんだ47枚の金貨 が轟音を上げるッッ!!
「親父ッヒ!!」
「ああン…?何だねお若いの」
金貨袋をドグシャァァンとカウンターに叩きつけ、親父の両耳を渾身の力で掴んで大絶叫する。


「この棚のここからここまで全部買うぜッッ!!!」


バァァァ〜ン!!
言ってのけたッ!!
今までの俺に出来ないことを平然とやってのけたッ!そこにシビれる憧れるゥ!
眼を見張れお前の生き様ッ!
耳を澄ませ魂の慟哭ッ!
回路全壊ッ!
オープンザチャクラッ!
シュミレーションゴーッッ!!!


まだ買う前から、ジオングの下半身にドムの脚を接着した時にも似た達成感に恍惚とする俺。
するってえと何ということでしょう。
値段表に輝く脚が生えたァァーッ!?




 ラウンスパーの薬(体力点+4)金貨5枚 

 ガロウブラッシュの薬(1・2時間眠らせる) 金貨2枚

 レンダリムの万能薬(体力点+6)金貨7枚 

 アレサーの薬(一時的に戦闘力+2)金貨4枚 

 グレープウィードの濃縮液(飲むと、死ぬ)金貨4枚


値段表……改めテレタビーズみたいなリトルグレイの変種がカウンターに鎮座していた。
『……来ちゃった』
「君は誰だい?」
『ボクはハッパの妖精さんさ』
「はあ。ところでその鼻セレブの箱から取り出しましたる紙には何が書いてあるんだい?」
『コイツは魅惑のラインナップ…大作RPGで言うところのステキなクリンミセスというヤツさ』
「ウワワーイ!」
『ボウヤ。何を買いたいんだい?』
「コレェーコレェー!!!」
やけに親しげなハッパの妖精とピクサーっぽい絵面で語り合い、レンダリムの万能薬のところを奥義・鞏家兜指愧破で穿ち抜いてアッピール。
1本で金貨7枚…それは涙の数だけチェリーを浮かべたカクテル。
だがッ!この程度の出費痛くも痒くもないのだよ!
玄関が暗くてお靴が見えないワ!?ならこの金貨に火を点けて…ほら明るくなったろうッ!?
カイ修道院の『ある意味古くて新しい歴史教科書』に載っていたあの図を思い出しつつ金を払う。
……取り敢えず一本目を買ったところで、歴戦のゲームブッカーの勘が警報を発した。


妖精さん、その薬飲んでみろ」
『ボクは飲んだばかりで……』
「いいから飲んでみろ」
本来であればゲームブック業を発動させ、数パラグラフ先の未来を読むところだが……。
せっかくだから自分の手を汚さず、ハッパの妖精さんに毒味させるぜ…ッッ!


モッキュンモッキュン


「気分はどうだい?」
『やあ、元気ハツラツさ』
「ホントに〜!?」
『あー…やっぱり気持ち悪くなってきた』
「そら来た。英国人の悪辣な罠が発動してしまいまった」
『……急激に酸っぱい物が喰いたくなってきたッ!あとご飯の湯気がダメ!ゼッタイ!気持チ悪ーイ!』
「…………お前のような妖精がいるかッ!肥料でも喰ってろ!!!」



旅の疲労で体力点は最大値−8の25点だったが、今の一瓶で瞬時に31点まで回復。
こいつァ凄いぜ!
『妖精はいませんでった。あと乗客の日本人も。ぶっちゃけ値段表に落ちた七色の体液が変な図形に見えただけでった。正直スマンかった』
「それはそうとまあ朕の話を聞きなさい……かの雪舟も小坊主の時分は絵を描いてばかりだったのでとうとう和尚さんに柱に縛り付けられてしまったという」
『おお!マッシブモンク!そりゃ鬼六先生も逃げ出すっつー話だ…全裸で!』
「鬼六かよッ!兎に角、そんで雪舟は涙で床に鼠の絵を描いた。するってえと和尚さんは雪舟の足指を鼠が囓ろうとしていると思って…」
『それ何てロールシャッハ?』
「違うわッ!和尚さんが雪舟の才能と情熱を知って絵の勉強をさせるいい話なんだよ!」
不惑サブカルナレッジなんぞ狗に喰わしちまえッ!!!』
「ヒ…ヒィィッ!」
最前から熱に浮かされたように「病院逝け」を連呼していた親父が、俺の咆哮に怯えて万能薬を持ってくる。
それを奪っては投げ、奪っては投げ、次々にお買い上げ。
万一に備えて懐に隠し持っていたラウンスパー(体力+4)は邪魔なので即座にキメて、これで体力も最大値33点まで回復。
あとはスペースの開いた4つ分の空隙にレンダリムの万能薬 を次々放り込む。
しめて金貨35枚のお買い上げじゃああーッッ!!!


ドリームランドから帰還すると、木箱を抱えて何やらヒィヒィハァハァ言ってる戦争の狗が視界に入った。
「なあボノウルフさんや」
「……生きてたのか」
バファリンの半分は優しさで出来ているそうだが、残りの半分は何で出来てるんだ?気になって夜も眠れねーッ」
「ああ。水。あと微量の遊び心」


ある意味狼の血塗れ人生において最も平和な日であった。
(つづく)