ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ96→→→パラグラフ26:俺の名はボノウルフ:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



傲然と嘲笑すると、不気味な沈黙が隘路を覆う。
先程まで渺々と吹き荒んでいた風が、いつしか止んでいた。
祭司長の顔が屈辱と憤怒に歪み、儀式的に骨折を繰り返し捩じ曲がった指が俺を指し、呪詛を呟いた。



念バリアを身につけていれば、
念バリアを身につけていなければ、


強力な呪詛と同時に頭蓋の奥が脈打ち疼きだす。
ダークロード・バシュナの従者たちが自らを恐ろしい拷問を科することによって得た、暗黒の自我の鞭。
とはいえ、念バリアを修得したカイ・マスターにとって、定命の者の精神攻撃など、いとも容易に遮断することができるのだ。
しかし、ここは敵を油断させる為、蹌踉めきつつ苦悶の声を唸ってみせる。
従者たちは妙なる音楽でも聞き入るかのように耳を傾け、僧衣の下から奇怪な長刃のナイフを引き抜いて俺を取り囲んだ。
全員が射程距離に入った瞬間、ソマースウォード を咆哮とともに燃え上がらせる。
邪悪の半神・残り十七柱のダークロードを殲滅するのが狼の宿命。
その従者たる闇の信徒を見つけたからには……唯の1人でも生きては返さんッ!



バシュナの従者たち 戦闘力点22 体力点48


神速の反撃に驚愕したのか数名の動きが鈍る。
だが大半は数の力に酔い痴れ、48点の体力点を頼みに、血に飢えた悪鬼そのものの声をあげて無防備な脚に斬りつけてくる。
……確かに並の騎兵相手なら、それが最も有効な手だろう。
だが奴らは分かっていない。
マグナカイの動物コントロールを身につけたカイ・マスターは人馬一体の境地にあり、攻防ともに並の騎兵と天地の隔たりがあるのだ。
馬上の俺は徒歩での戦いより遙かに強く、戦闘力点を2点増やし鬼神の戦いを見せるのだ――



「百邪斬断!」
太陽の焔を迸らせ、人馬ともども黄金の真円を描き、従者たちを斬り伏せていく(乱数表7)。
「万鬼駆滅!」
怯んだ従者たちの殺気が乱れたのを見逃さず、祭司長含む十数人を長大な黄金の刃で斬り下げた(乱数表0)――


ただの二度、暗夜に金色のフレアが眩く煌く。
掠り傷さえ負わず、血糊が蒸発していく太陽の剣を鞘に納めたとき、周囲には累々たる屍が転がっていた。
祭司長を含め半数以上が死に、僅かな生き残りが路地の闇に逃げていく。
深紅の僧衣を物色すると金貨12枚 ルビーの指輪 (特別な品物)が手に入り、思わず忍び笑う。
何の事はない。
バシュナの従者どもは信徒を1人増やす心算が、不倶戴天の敵に貢物を捧げただけに終わったのだ。
家々の戸口から覗く野次馬の囁き声に混じり、一団の兵士の足音が近づく。
騒動を知ったリリス警備兵が虐殺の場に辿り着く頃、俺は素早い手綱さばきで隘路に逃れ、今夜の宿へ向かっていた。


翌朝、シリルスを伴ってもう1つの不愉快な記憶の場……
前回屈辱を味わった弓技大会の会場へ、俺は足を踏み入れていた。
参加費の金貨2枚を払っても全く懐は痛まない。昨夜の臨時収入と合わせ、金貨は25枚もあるのだから。
心と財布に余裕を持ち、まずは予選会へ。
……正直、今回の探索における最大の不安要素はこの予選会だった。
一体どれだけ頭の悪い教えの学び方をしたのか、上級武術を持たぬ今の俺にとってここは一番のネックなのだ。
だが蓋を開ければ一射目が「8」。遂に幸運の女神が微笑んだらしい。
再び決勝戦の会場で、練達の射手アルタンと向き合った。
無論、決勝戦のルールも前回と同じく通常の戦闘ルールに従う。あの時に比べ、俺は遥かに弱い。
だが……旅が始まる前、シルバーセージの賭博場で出会った珍妙な風体の男から、俺は、秘策を授かっていた。



アルタン 戦闘力点30 体力点(標的点)50


「あのう……ボノウルフさん?決勝戦の準備をお願いしたいのですが?」
「これでいい。あと俺をその名前で呼ぶんじゃあないぜッ!」
射撃場の定位置に着き、困惑したような顔の審判に言い放つ。
「い、いえ、でも……その……」
「何だ」
弓を持たずに何をされる心算ですか?」
凄まじい刃鳴りとともに太陽の剣ソマースウォード を抜き放ち、片手に油断無く盾を構えてアルタンの隣に立つ俺。
審判の鼻先で剣尖をちらつかせ、俺は確認した。
「通常の戦闘ルールで決勝戦を行う……その通りだな?そう書かれているな、ルールのところに?」
「は…はいィィ」
「ならば弓を使う必要など何処にも無いな!?」
「は…へ……ヘェェッ!?」
そうなのだ。
前回の俺が間抜けだったと言う他無い。
弓を武器に戦うなどという記述、本文の何処にも無いのだ。
ならば……勝算の高い確実な手を選ぶのが、プロのプレイヤーというもの。
そもそもルールの穴を突くような卑劣な行為をこの狼が取ったことがあるだろうか……いや無い。
むしろ正々堂々、あくまで本文の記述のみに忠実に従った決勝戦を始めようとしているのだ。
それ以上何か言うことがあるのかね……ンンー!?
「卑怯とは言うまいねェェェ!!!」
無慈悲な豺狼の笑みを浮かべ、俺は怯えきったアルタンめがけ、陽炎に揺らめく黄金の刃を振り翳した。
次回、弓技場に血の惨劇が!!!

(つづく)