ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ261→→→パラグラフ129:僕は、バシュナ信者たん!:(死亡・10)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



微かに光る槍の先が胸まであと僅かと迫ったとき、君は武器を抜き、槍を払いのけた。
勢いで槍は折れ、見張りはあまりの驚きに目を見開き、顎をがたがた言わせて後退りした。


リベンジを期した乱数表の出目は8、教えのボーナスを加えて実に「11」。
鎧袖一触。
片手で完璧に手綱を操り、宙で抜き放った太陽の剣が見張りの槍を叩き折る。
そしてェエエエェェェェーッ!!
本文では逃げ延びたことになっているそこの貴様!
こいつはメチャ許さんよなああああ!!
この俺(本文の狼)が許しても、この俺(中の狼)は許さん!
背を向けて逃走した見張りに必殺の一撃をくれ、俺は意気揚々とクォーレンの市中へ逃げおおせる。
兵舎から飛びだす兵士連中を撒くなど児戯に等しい。怒声はじきに遠のいた。
まずはよし。
すっかり忘れていた積年の恨みを晴らし、入国料の金貨3枚をバックレることができて旅の滑りだしも上々だ。
国境の街を夜の帳が包む。さっさとバレル・ブリッジ居酒屋に急ごうと……




左の通りを進むか。
右の通りを進むか。
予知を身につけていれば、



予期せぬ分岐路に驚いて立ち止まった。
ここはクォーレンだ。リリスの東、幾度となく通り過ぎたストーンランドのとば口に過ぎない。
にもかかわらず、初めて目にする通りが、危険を知らせる(だろう)予知の選択肢と並んで二手に分かれている……
悩んだところで仕方ない。
物語の深さに感心しつつ、取り敢えず左の通りを進んでいく。
パラグラフを開くと同時に「―― イラスト10」の文字が目に飛びこむ。
挿絵つきの重要イベントなのだ。
ここに来て、ようやく待ち受ける展開を思い出す。



狭く曲がりくねった路地は人気のない陰気な一角へ伸び、黒い敷石を僅かなカンテラが照らしていた。
クォール河に下っていくと、倉庫や船の荷下ろし場が、人の絶えた夜の不気味さを醸し出す。
狭い道の前方から、異相の行列が坂を上ってきた。
赤褐色の擦り切れた僧衣を身に纏った数十人の行列。手には松明ではなく風に揺れる歪んだ黒蝋燭。
お世辞にも全うな人々では無い。
暗灰色の目をした先頭の男が手を挙げると、行列は俺の正面で停まった。
鋭い視線で馬上の俺を睨め付け、指を突き付けた男は、視線と同じくらい陰鬱な声を響かせた。
「お前は信者か、それとも信者ではないのか」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・


『信者』と答えるか。
『信者ではない』と答えるか。
マッケンの地下寺院へ行ったことがあれば、



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・


おお……信者たん……何もかも懐かしい……。
必要以上に巨大なご尊顔の初出は05年の頭にまでさかのぼる。
まだゲームブック論とか書いていた頃だ(当時はスキャナとか下手でアレな写真になっている)。
狼の中の人が当時割と熱烈にプッシュしていた信者たん。
その自己充足的な信仰生活によって培われた顔圧が、馬上の俺を押し潰さんとしている――


マッケンの地下寺院へ行ったことがあれば、


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・


クォーレンより北へ街道を進むことおよそ120マイル。
そこにはかつて、ソマーランドとストーンランドを繋ぐ一つの街があった。
―― 運命の峡谷マッケンゴーグに面した廃墟の都、マッケン。
忘れよう筈もない。
バサゴニアの禿鷹貴族バラカが起こした私掠を防ぎ、領主の娘マデロンを救い出したあの地下寺院に潜んでいた異形の者たち……
闇の半神たるダークロード最強の一柱・バシュナの復活に身を捧げる狂信者……『バシュナの従者』たちなのだ。
血染めの僧衣を飾る髑髏の徽章はその証。
俺の手でバラカが倒され、生贄の儀式が破られた後、彼らはソマーランドを逃れ南へ向かったのだ。
ラストランドでは、信徒が散り散りになり教団が失われたとしても、必ずやバシュナの霊とともに甦る手段があると信じられている。


君は今死の危険にさらされている。
彼らに正体を見破れば殺されてしまう。


さもありなん。4年前にバラカを倒し、バシュナ復活の儀式を阻止したのはこの俺なのだから。
リーダーが語気を強め、繰り返す。
「お前は信者かッッ!それともッ!信者ではないのかァァッッ!」



『信者だ』と答えて迎合するのは簡単だ。
だが戦いを恐れた卑しき振る舞いを、狼の矜持が許さない。
「滑稽な冗談だな。陳腐な手品ぐらいが能の、死霊の使い走りごときの分際で」
凍て付くような氷の嘲笑とともに牙を剥く。
「『信者』とやらの同類になるくらいなら側溝の泥でも啜る方がマシだろうよ」
辺りは静まり返り、狂信者たちが頭巾の下から熱病に取り憑かれたかのような瞳を覗かせた。

(つづく)