ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ102→→→パラグラフ82:HELLMONEY(死亡・8)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



殆ど人にも会わず、戦乱の地を抜けて無人の境を旅してきただけに、揺らぐ街の灯りは旅人を暖かい気持ちにさせた。
夜空には冷たく宝石が輝き、川面には重なりあう灯の数々。
大通りに入っていくと、じきに大小とりどりの船舶が繋留された波止場に出る。
マストの上についた赤や緑の信号灯が、ストーン河の黒い水に鏡写しとなって活気を映しだす。
まだ働く人々の多い波止場に入っていくと、大きな三角帆の輸送船に渡した道板の横に掲示板が立っていた。
ストーン河を通行する定期船のようだ。
チョークで書かれた4つの目的地への料金を夜明かりのもとで読む。



リューエン ― 金貨10枚
レム ― 金貨5枚
エウラ ― 金貨20枚


4番目の目的地……テカロは料金表示が上から×印で抹消されていた。
「戦争のためキャンセル」と書かれた項目を見やり、小さく溜息をつく。
予想はしていたが、やはりテカロ入城は厳しい。
最長でもエウラまで、その後は馬で半日近い道程を歩き、包囲網を潜り抜ける手を捜さねばならない。
「船に乗るんかい。明日の早朝には出発するよ」
「ああ……ちょっと待ってくれ」
甲板を通りかかった作業中の船員にうながされ、エウラまでの切符を買うべく金貨袋を出す……


袋には何故か金貨13枚が入っていた。


いや、何故とかじゃねーですから!!
寝ているうちに金貨が増える素敵な妖精さんなんざ、この腐敗した世界のどこにも存在しやしねーのだ。
よーく考えろコラッ!お金は大事だろーがッ!
貴方には功夫リスクヘッジとか)が足らねーんだよッ!
何のことはない。
バレッタ到着時から金貨は20枚に満たないうえ、その先はしょぼしょぼと目減りする一方なのであった。
ムゥーン。
悲惨な現実に引き戻され、断腸の思いで金貨10枚 を支払うことを覚悟した。
というか、それしか払えない。
払わないという選択肢もあるにはあるが……この先も徹夜で馬を飛ばす気は流石に無い。
「ほォい!お客さんかいィィ」
船と桟橋を繋ぐ道板を、夢遊病者のような足取りで上がっていくと、デッキに吊るしたハンモックで寝ていた男がぴょこりんと飛び起きた。
矢のような勢いで走ってくると、煙が出る程激しく揉み手擦り手をしつつ胸ポケットから切符の束を取り出した。
必要以上に景気のよい艶々した顔をおおう長い顎髭を扱きながら、船員は陽気な声をあげた。
「カゾナラ号へようこそォォ!」
……どうも
「ストーン河を行くならこいつが一番だァ!どこまで行くんだい?」
黙って金貨10枚を見せると、男は音を立てて頷き、リューエンへの切符 を渡してくれた。
「真夜中に出航するから、今日はもう船を下りちゃ駄目だよォォ!でないと切符握ったまま泳いで追っかける羽目になるからねェェ!ガハハハハッ!」
「……」
「馬はあっちの甲板から船倉に繋いでおいてッ!いい旅を楽しんでくれよなッ!」
…………はあ
「いやァァそれにしても暗いねェェ!暗い暗いッ!お客さんぐらい根暗な傭兵さんも滅多にいないぜェェ!?」
切符もぎりの船員が腹を揺すって笑う。
「そんな暗いと戦闘中にポックリ逝っちゃうよォ?ガハハハハ」
……アハハ…ハ
ここで船員を一人残らずポックリ逝かせちゃう訳にもいかないし……別にどうでもいいんだが。
そりゃこれだけ船賃ぼったくりゃ、笑いが止まらんだろうよ。
自由経済のツケをきっちり払い、狼の鬱は深まるばかりだった。
まだ道程は3分の1弱……
この先……金貨3枚 で、どうやって喰い繋いでいきゃあいいんだよ……

(つづく)