ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

賢者の中に見覚えある顔があった

【パラグラフ127→→→パラグラフ158:星の智慧者:(死亡・8)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



扉が背後で閉まった。
唐突な闇に放り出されるが、目が慣れるにつれ、そこが大広間の控えの間だと分かる。
陰々滅々と谺する小さな話し声めざして廊下を進んでいくと、前方にぼんやりと朧な明りが見えてきた。
広い部屋の中央、淡い燐光を放つ金属のテーブルを囲んで、老人たちが議論を交わしている。
青白い光球が宙に浮き、彼らを照らしだす。
老人たちは、急に現れた俺に呼吸が停止するほど驚き、声を失った。
狼の嗜みとして足音を殺していたのが裏目に出たらしい。
驚きの余り1人は気を失い、別の老人は開いていた分厚い蔵書と地図を手から取り落としてしまう。
僅かに1人の老人だけが静かな微笑を浮かべて待つ。
……最後に顔をあげたその老人、見覚えある星見の賢者の顔を見つめ返す。
老人たちの尋常ではない恐慌。
闇に潜み、迫害を恐れるかのように研究を続けている彼ら。
そして。




以前、『襲撃者の道』の小屋を訪れたことがあれば233へ。
訊れたことがなければ、6へ。



「ようこそ」
物静かな微笑みを浮かべた老人が、かつて聞いたことのある言葉を紡ぎ出す。
「またしても星たちが儂らの出会いを予言していたのじゃよ、ローン・ウルフ」
「昨夜の瑞兆なら俺も見たさ―― グウィニアン師よ」
滅多にないことだが、俺は膝をつき、カイ戦士の最敬礼を老人に返した。
賢者グウィニアン。
4年前の任務の折、ソマーランド南方は『運命の峡谷』マッケンゴーグで待ちうける危機を先んじて警告した謎の老人。
老人の予言詩があったからこそ、俺とデュバル隊長は最強のダークロード・バシュナ復活の狙いを知り、阻むことができた。
そのときの老人こそ、目の前に立つこの星見の賢者……グウィニアンだったのだ。
死んだシリルスのことを思い、手短に彼の死と、最後に残した遺言をグウィニアンに告げる。
……『ブラス街の賢者に助力を仰げ』、と。
「星の引き合わせは時として残酷なもの。人はただ、その啓示に従い、最善の道を取るほかないのじゃ」
暫し目を閉じ、黙然としていたグウィニアンはそう告げると、周囲に目をやった。
狼狽していた老人たちは、俺たちのやりとりに戸惑っているようだ。
「うむ。落ち着くのじゃ。この者こそカイ戦士。最後のカイ・マスターに他ならない」
徐々に静まった老人たちは、いまや敬意も露わに俺を見た。
広間の中央に置かれた地図、そして丸天井に向かって備えつけられた望遠鏡を皺だらけの手がぐるり指さす。



「星たちは、物事のあるべき姿を支配しておる。
我々はお主がロアストーン を探しておることを知っておる。
そしてそれが正しいことも知っておる。
だが、この街の住人にはロアストーン を恐れる者も数多い。
彼らは、星たちの教えを無視して愚かにもロアストーン を隠し、探求者を殺すのじゃ。
無知なる信徒は、ロアストーン が利用されればこの世が終わると怖れておるのよ。
煽動を目論むダークロードはその隙につけいっているのじゃ……」



突如、扉を叩く激しい音が賢者の滔々たる語りを遮った。俺の馬が見つかってしまったのだろう。
「奴を引き渡せ!!」「正当なる裁きと罰を!!」
「うむ。急いで逃げるがいい」
異論はない。
星見の賢者たちは広間の奥にある小部屋に向かった。秘密の取っ手を捻ると羽目板が開き、通路が現れる。
殿軍の俺が通路に踏み込んだとき、背後で天文台の扉が叩き壊される音が響いた。



「ダークロードがバレッタの人々を煽動しているのは確かなのか」
「うむ。このリリス公国で多くの公子が互いに争い、版図を広げようと周囲に戦争を仕掛けているのは知っておるな?」
隠し通路を足早に歩きつつ、問いただす俺にグウィニアンが答える。
「ダークロードは姿を隠して彼ら公子たちに野心を吹き込み、これがストーンランドの終わらぬ戦争の一因となっておるのじゃ」
「しかし、なぜ……」
「北マグナマンドを頭に描いてみるがよい。ダークロードの侵略路を思い描くのじゃ」



左上、黒い版図がダークランドだ。
左下の緑の部分がストーンランド国家群。
右側の細長い国が故国ソマーランドとなる。
右下にはバサゴニア、そしてスロビアに接するアナーリ共和国だ。


「ラストランドへの侵略路には太陽の国ソマーランドが立ちはだかり、侵攻はできぬ。となれば南、ストーンランドは格好の狙いとなる人類国家の1つなのじゃ」
「そうか……だが、ダークロードは内乱中だぞ」
「遙か古から邪悪の手は及んでおる。これは4219年のカイ修道院攻囲戦でお主の太陽の剣に滅ぼされたダークロード・ザガーナの企みじゃがな……」
賢者の語る歴史は、数百年にも及ぶ、暗躍する悪と人類との物語だった。
「現マガドール王バグナドール6世はダークロードの傀儡だと噂され、アナーリ共和国を援助するスロビアでも奴らの破壊活動が絶えた事は無いんじゃよ」
たかが内乱を起こした程度で、蜘蛛の巣のように張り巡らされた謀略はそう簡単には断ち切れぬと言う。
戦乱の地を影で操り、相争わせるダークロード……
グウィニアンの物語は、長らく眠っていた憎悪と復讐の念を掻き立てるに充分だった。

(つづく)