ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ287→→→パラグラフ139:デンカ料金所の死闘:(死亡・8)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



俺がパン屋の玄関に馬を繋ぐ頃、シリルスは短気に料金所のドアを叩き、笑いながら怒鳴っているところだった。
あー…弟さんがもし生きていれば、転寝している時間だったことだろう。
運命に流されず逆らわず、爺さんに余計な忠告もせずにほったらかしてパン屋の中へ。
美味そうな匂いが狼の鼻をひくつかせた。
『王侯貴族のようにもてなされる』
シリルスの言葉はあながち嘘でなかったようだ。
籠の中には焼きたてのパンが積まれ、カウンターにはパイ、ケーキ、ビスケット、あらゆる種類のパン種を用いた食料が並ぶ。
ちょいと一口つまむと、なるほど、こいつは美味だ。
本来なら体力点が減っていたのなら、その旨さで1点取り戻すところなのだ。
ところで、カイ修道院ではパンを喰ったリアクションが過剰であればあるほど美味いパンだったという恐ろしい掟がある。
美味いパン一口のために危険な寸劇を演じ命を落とすことなど、まさに日常茶飯事なのだ。
俺も尻を両手でバンバン叩きながら白目を剥き、
びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」と大絶叫。
今にもボルタレンロケットを虚空に発射しようとしたところで、
ようやく我に返った。


……ああ、そうだった。
意外と鈍いな俺。
戦闘もしてないのに、何で体力回復スポットへわざわざ足を運んでいるんだ?ザ・無意味。
しかも2食分の食料 を持っていけるというが、直後のハーフウェイ旅館で鼠の餌になることも知っている筈だ。
でもまあいいやと籠の中身をざらざらナップザックにブチ撒けていると、助けを求める声が響いた。
言わんこっちゃない。
いや、何も言ってないし、今更伝えようもないんだけど。
埒もないことを思いながら外へ走りでて――


小屋を飛び出すと、シリルスは鎧を着た6人の騎兵と戦っていた。
……(中略)……
1人を残し、他の騎兵はシリルスの馬の手綱を握って橋を渡っていった。
その場に残った騎兵は、頭から爪先まで黒と金の鎧に身を包んでいる。
彼は弓を取ると、馬へ向かって走る君に狙いを定めた。


冗談じゃあない。
パン屋で時間を潰して、頃合いを見て連れ去られている……俺が当初思い描いたのはこのシナリオだった。
だが、蓋を開けてみれば。


わざわざ女暗殺者が残って俺を狙っていた―― ッッ!!!


手筈の全てが計算外、何もかも狂い始めているッッ!!
矢の速度よりも速く、大地に身を投げる。
間に合うか!?
乱数表の数字は「4」。低い。
だが、予知か上級狩猟術を身につけていれば5を引くとある。
どうにか頭上をかすめた(体力点−2)矢が小屋の壁に突き刺さって震えている。
死を免れた、そう知った瞬間、野獣の激怒が全身を巡った。
騎兵は弓を捨てて馬に乗り、他の騎兵を追って橋を渡っていく。
カイ・マスターとしての熟練の動作で肩から弓を下ろし、矢筒から一矢抜きだした。
どのみち連中のやったことは許せる所業ではない。
モリーの貴族ロークの妹オーラ……今この場で処刑執行するッ!


戦士は馬のスピードを上げ、肩からマントを黒い翼のように靡かせて橋を渡っていく。
君は弓を引き絞り、充分に狙いを定めた。チャンスは一度きりしかない。
「乱数表」を指せ。
弓の上級武術を身につけていれば、その数に3を加えよ。
 7以下なら、296へ。
 8以上なら、303へ。


8割の確率で射損じる。
これ以上は無い逆境にあって、無心の一射は馬上の俺に残心をとらせた。
―― 乱数表が「9」を指す。
影絵のように陽光に浮き上がったシルエットを、一筋の線が横断していた。
鉄仮面のど真ん中―― 眉間を矢が貫通している。
視線の遙か先で、奔騰した軍馬が漆黒の鎧に包まれた亡骸を振り落とした。
息を吐き、残り4本となった矢筒と弓を背負いなおして俺は馬を急がせた。
銀のブローチ(特別な品物) 金貨11枚 を回収し、騎兵のあとを追う。


(つづく)