ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

白壁の小屋が建っている

【パラグラフ247→→→パラグラフ272:クールシャー!:(死亡・6)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



砂塵と熱気から身を守るため、布で顔を覆った俺たちは、柔らかな赤い砂を歩きだした。
荒涼たる砂漠で育つのは針金のような草ばかりで、それが絶えずブーツや脛当ての隙間に刺さってくる。
やがて、砂岩でできた丘の洞窟へ続く干上がった川底に出た。
穴の入口には看板が立っていたが、苛烈な陽光に灼かれて判読不能だった。
イカレシュの街ともティパサとも無関係じゃないかな。無視してもいいだろう」
「まだわからねーのかママッ子野郎のバネドンッ!だからこそ入るんだろーがッ!」
「は?」
呆気にとられるバネドンを尻目に、さも当然のように冒険者の習性を発揮しつつ洞窟に侵入。
鍾乳石の作り出す不思議な光景など完全無視。
更に地下水脈にかかる自然の橋まで辿り着き、そこで、



バクセラス患者と遭遇した。



カイの回復術の基礎知識として解説すると、バクセラスは感染力の強い致死性の伝染病だ。
罹患すると瞳は黄濁し頬は緑色に糜爛して腐り侵された神経が寸断され痩せ衰えて死に至る―――
―――っていうかほら見てよ彼が地下の川で釣り上げた蟹なんてもう感染して死にかけているし―――!!!
カカッと華麗にバックステップしつつ速やかにその場を去る。
しかしあまりに焦ったため、ナップザックに入れるもの2つ を落としてしまった。
……無くした品物はタオル 水筒 に決定。
本当を言えばバクセラスはエデ で治せるが、俺にそんな博愛精神を期待しないで欲しい。
ぶっちゃけ乾いた大地は心痩せさせるという訳だ。



洞窟を出て歩くうち、山羊飼いの掘っ立て小屋を見つけた。
「旅の方ですか。イカレシュへようこそ」
飼っている山羊の横で、主人らしい男が額に手をあてて親愛の情を表し、掘っ立て小屋に招いてくれる。
カイの第六感が純粋な好意からのことだと教えてくれたので、素直に応じることに。
バサゴニアの山岳地帯に住む男たちの例に漏れず、彼もまた肩幅が広く、頑健そうな体格だ。
こうした辺境の人々にも徴兵の義務が課せられており、バサゴニア帝国軍の強さも納得できる。
テーブルに着くと男は、ライムグリーンの果実酒を陶器の杯に注ぎ、
「クールシャー!」
叫んで一気に飲み干した。これがこの土地の作法らしい。
「クールシャー!」
「クールシャー!」
どうやらイカレシュの地酒なのだろう。
緑色なのが疑わしかったが、思いきって男に習い飲む。
と、腹の底から温かみが湧き上がり、全身の緊張感が解けた。体力点を2点取りもどす
俺たちの様子を見て満足げに笑った男に進められ、金貨5枚だという「クールシャー 」一瓶を買った。
この一瓶で体力点を4点取り戻せるだけの量がある。
単価と回復量の率も悪くない。バラキーシュで売っていたラウンスパーと同じぐらい良い薬だ。
―― ちょっと待て!
クールシャー って、酒の名前かよ!
どこの世界に、乾杯のとき酒の名前を叫ぶ作法があるんだよ!!」
混乱して叫ぶ俺。
そしてそんな俺を窘めるバネドン。
「まあ落ち着けローン・ウルフ。ここは例をあげて考えてみるといい」



「じゃあ乾杯の音頭をお願いしますです」
「美少年!」
「美少年!!」
「俺が魔王じゃあああ―― ッッ!!!」


「………………」
「ハアハア早くキメたい………」


ケミカルファンタジーの世界に旅立ったバネドンを完全放置しつつ、ティパサの居所を尋ねることにした。
「ああ、老ティパサね」
「知っているのか?」
「ドウガ市場の近くに住んでいるらしいが、家はよく分からない。老ティパサには永いこと会ってないしね」
何のことはない、知らないのだ。
礼を言って立ち去りかけた俺とバネドンを男が引き止める。
「そうそう、老ティパサに会ったら、ヤギ飼いのカムシンがこう言ってたと伝えてほしいんだ」


「貸しッ放しの金貨12枚返せヴォケ!」


「そう言う訳ですんで旅の方たちよろしく頼みますよ」
「……」
「…………」
毒気を抜かれ、俺たちはカムシンの掘っ立て小屋を出た。



通過パラグラフ:(247)→383→235→344→270→241→365→225→211→318→  回復術の効果:+9点   現在の体力点:31点
(つづく)