ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ160→→→パラグラフ137:ブラック・ザカーンの伝説:(死亡・6)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ミカルム街を通り抜け、伝説に名高い『王女たちの墓』――ホーム・タス・ラライムへと歩いていく。
かつてカイの師が語ってくれた『ブラック・ザカーンの伝説』。
それはこんな物語だ――



ブラック・ザカーンはバサゴニア帝国史上最も残忍な皇帝として知られていた。
巨大建築の妄想に取り憑かれたザカーンは近隣の国々を征服し、奴隷として建築現場に送り込んだ。
ザカーン自ら工事を監督し、少しでも工事が遅れた等の理由をつけては、奴隷を昼夜の別なく処刑していった。
彼が好んだ処刑方法は、生きながら頭頂から爪先まで真っ二つにするというものだった。
大量虐殺によって彼の悪名は轟き、また敵は密偵を送り込んで宝物庫の場所を知ることができなくなった。
犠牲者の中には、残酷な父の処刑をやめさせようとした2人の娘、ケビラとソウッセもいた。
正気とは思えぬ激怒の挙げ句、ザカーンはこの2人を真っ先に処刑するよう命じたのだ。
……だが、ザカーン自身が死んだ方がまだ良かったのだろう。
彼は更に2年間、自己嫌悪と絶望に苛まれて生き延びた。
老いた皇帝は夜な夜な娘達を求め、慟哭しつつ巨大な宮殿の部屋から部屋へ歩き回ったという。
死後、ザカーンは娘達と共に『王女たちの墓』に葬られたのだった。



足を止め、溜息をつく。
墓の向こうには、巨大な白亜の宮殿が聳え立っていた。
現皇帝ザカーン・キマーもまた、ダークロードと取引してまで権力を拡大しようとしている。
それもまた、ある種の狂気なのかもしれない――


王宮への侵入路は二つ。
忍び返しのついた北門と、鉄格子の下りた西の城壁の橋だ。
幸い俺を捕らえるために大半の兵が出払っているらしく、今日は衛兵の数もまばらだ。
城壁は登れないことも無いが、左腕の不調に加え、灰緑色のカイ・マントは野外ならともかく目立ちすぎる。
薬草夫人は北門の兵には賄賂が通じると言っていたが……
今や薬草を買えないと分かった以上、ビタ一文たりともドブに捨てるつもりは無いのだ。
西門へ近づき様子を窺う。
通常なら20名は常駐する詰所も、今は歩哨2人きりだった。
そのとき鉄格子があがり、城内から出てきた騎兵の一団が疾駆していく。
馬の蹴立てる砂塵に包まれた衛兵たちは咳きこみ、うがいをしに水飲み場に走った。
がら空きになった城門……
カイの擬装術と追跡術、双方の教えを組み合わせ、影のように、深く静かに潜入する。
兵士たちの背後を擦り抜けたカイ戦士の姿は、恐らく気配さえ感じ取れなかったことだろう。

(つづく)