ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

変わり果てた特使の姿

【パラグラフ336→→→パラグラフ254:死者の広場:(死亡・6)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



公衆浴場をあとにして階段を下り、俺はサアディ・タス・オウダ……『死者の広場』に入った。
黒い敷石が敷きつめられ、それぞれ敷石の中央に長い鉄の杭が打ってある。
上の公衆浴場から見下ろすと、広場は巨大なヤマアラシの背のように見える。
だが階段を降りきった時、なぜここだけ無人なのか理解した。
―― 全ての杭の上に、人間の首が刺さっているのだ。
ザカーン帝に背いた見せしめ―― 首の持ち主は反逆罪を犯したとみなされたらしい。
広場の向こうまで進んだとき、一本の杭に腕がぶつかり、上着が朱に染まった。
上を見上げ、絶句する。



バサゴニア特使の虚ろな瞳が、あらぬ方向を見つめていた。



額には真新しい『反逆者』の烙印、その左右に並ぶ40本近くの杭は、全てガレー船の船員のものなのだ。
彼らは、ザカーン帝の理不尽な命令により命を奪われたのだ。
俺が生き延びた代償として……
カイにかけて、必ずやザカーン帝に復讐することを誓う。
俺は背を向け、混雑するミカルム街に走った。
じき、曲がりくねった路地の先に見覚えある看板が飛び込んでくる。



バー・ダー・マソウン/薬草夫人


血の気を失った左腕が疼き、今度こそエデ を必要とする俺はビーズのカーテンをくぐって店内に入った。
カウンターの女性が声をかけてくる。
「いらっしゃいませ、北方の方。何をお探しですか」
彼女のバサゴニア人らしからぬ緑色の目は鋭いが、その声はあくまで穏やかで優しい。
エデ を探しています」
躊躇いがちに左腕を示す。
俺は、この先の展開を知らないのだ。否応にも緊張する。
エデの値段は幾らなのか。
傷を治して更に幾つ買えるのだろうか。
女は、眉を顰めて俺の腕を見やり、そして信じ難い言葉を口にした。
「残念ですが」
申し訳無さげに、しかし、きっぱりと女性が言い切る。
「あなたをお助けすることはできません」

(つづく)