ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

マグナカイの書

【パラグラフ200→→→第一部 完:砂上の影:(死亡・4)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



「ローン・ウルフを吾のもとに連れてこい」
この世のものならぬ声が広間に響き渡る。
真紅の絨毯が敷かれた一段高い玉座の上に、バサゴニアの新皇帝ザカーン・キマーが座っていた。
飾りの無い金色の服を纏い、黒い鉄球を握っている。
その目は底冷えのするような冷酷さとある種の狂気にも近い覇気を湛えた、暴君の目だ。
だがそれは、あくまで人間の域を出ない。
帝国の支配者として洗練され、磨きあげられた……その程度のものにすぎない。


非人間的な声の主。
ザカーンに命令するかのような傲慢かつ尊大な口調。
この広大な帝国の支配者さえ遙かに凌駕する邪悪の根源が、ザカーンの前に佇んでいた。



物陰から盗み見る俺さえも一瞬で絡め取った恐怖の元凶。
死を象った黒鉄の兜に顔は隠しても、腐敗臭と悪意の塊のような声はその正体を隠しようもない。
―― 宿命の敵。
―― 黒神ナールの眷属たる闇の半神が一柱。
―― アールナクの支配者―― ダークロード・ハーコン。



「ローン・ウルフは死の球 と引き替えに日没までには引き渡す。それで承知したではないか」
死の球 は既に渡した」
ザカーンの手にした黒い鉄球を見下ろし、ハーコンが冷たく断じる。
「カイ戦士を連れてくるのだ」
只の口論ではない。
両者の間には、背筋の寒くなるような意志力の闘争が感じられた。
ザカーンは平静を装って、約束の時は刻一刻と迫り、しかもハーコンは執拗にザカーンの心を探っている。
並みの人間なら一秒と保たず、あらゆる秘密を心の奥底から引きずり出され、挙げ句発狂していることだろう。
ザカーンは自らのはったりに命そのものを賭けている。
そして、その類い希な意志力がハーコンの力をはね除け、曲がりなりにも神であるダークロードとの対等な取引を可能にしているのだ。
「ローン・ウルフは捕まる、ハーコン卿よ」
ザカーンは怒った振りを見せて素っ気なく言った。
「ならば余も問おう。そなたは以前『マジャーンの墓』を荒らす理由が金や宝石では無いと言ったな?」
「……………」
「ならば何故、あれほど大掛かりな作業を王家の墓で行わせているのか」
重苦しい沈黙が広間を包む。
ハーコンの面頬から不自然な呼吸音ばかりが響く。
「……この取るに足らぬ砂の国に、障害となるものが二つある。吾等はそのどちらも排除したいのだ」
「それは」
「一つはソマーランド侵攻を阻む青二才、カイ戦士ローン・ウルフ。そして『マジャーンの墓』に隠されしもう一つ……吾等を脅かす、忌々しい『マグナカイの書』なのだ」
ハーコンの言葉が頭の中で谺し、心臓が早鐘を打った。


マグナカイの書!


不意に、死の罠に招き寄せられた理由が明らかになり、また不吉な事実も明らかとなった。
「マグナカイの書」こそはソマーランド最古の伝承の一つ。
初代カイ・グランド・マスター、サン・イーグルは、この書の奥義を極めることでダークロードに対抗する力を得た。
マグナカイの奥義は王家の祖ウルナー家に伝えられ、カイ修道院の戦士たちに代々受け継がれてきた。
だが修道院の虐殺によりカイの奥義を知る者は絶え、現在では教えの根幹は失われている。
その知識の源が、ここバサゴニアに存在したのだ。
ダークロードが先んじて「マグナカイの書」を見つけ出したならば、カイの叡智は永遠に失われるだろう。
未だ不完全な知識であるカイの教えは、俺の死とともに消滅してしまう。
だが、俺が先んじて「マグナカイの書」を手に入れれば、失われた全ての知識が甦る。
再びサン・イーグルと同じく、カイ戦士の最高位カイ・グランド・マスターに到達することもできるのだ。
そのときこそ、カイは真の復活を遂げることになる……ッッ!!






遂に暴かれたダークロード・ハーコンの狙い、熱砂に蠢く暗黒の影。
新たな目的と共に、最後の狼は「マグナカイの書」探求の危険と栄光に身を投じることとなる。
だが心せよ!
探索の旅に赴くより早く、狼の前には危難が立ちはだかるだろう。
その脅威とは何かを知り、マグナカイ探索に挑むならば 『砂上の影 第二部』 へ進め。
パラグラフ201へ進み、新たな冒険を続けよ。


【ローンウルフシリーズ第5巻 砂上の影・第一部 完:→Go to Next Stage
(つづく)