ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ273→→→パラグラフ37:アサジール楽団:(死亡・3)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



前方から街道をこちらにやってくるのは、荷馬車の一団だった。
派手な色の荷馬車はいずれも数頭の牛に牽かれている。
先頭の荷馬車には房飾りのついた大きな旗が翻り、次のような謳い文句が記されていた。

名高きアサジール楽団―― マグナマンド 王室お抱えの吟遊詩人たち

てんでばらばらに響く音色は、この吟遊楽団の稽古の音だったらしい。
思案顔のナインに、俺は目だけで肯いた。
すぐに隊員が御者のところへ向かい、合図して馬車を止めさせる。
たちまち先頭の馬車の後部扉が勢いよく開いた。
明るいピンクの上着をつけた丸顔の男がはしごを降りてくると御者を怒鳴りつけ、はちきれそうな太鼓腹から今にもズリ落ちそうなベルトをちょっと直す。
そこで、男は周囲を囲む50名の警備隊に気がついた。
「はわわ!」
「どうか落ち着いてください。自分たちはソマーランドの……」
「はわわわ!山賊だァァ!盗人だァ!敵襲ッ!敵襲ッ!」
進みでたナインの言葉も耳にせず、よく鍛えられた喉を絞って男が慌てふためく。
馬車の窓から不安そうな顔が幾つも並ぶが、すぐにその表情が笑顔になった。
制服を見て正規軍だと気づいたのだ。
未だ状況を理解していないのは丸顔の男だけだった。
パニクって腰の短剣をまさぐり、飾りのついた鞘から力まかせに抜こうとする。
……手を滑らせ、勢いあまった男は盛大にひっくり返った。
「うわらば!」
馬車の内外から笑いがおきる。
「落ち着きなさい、イェス。彼らはソマーランド軍の国境警備隊員よ。あなたの金を盗んだりしないから」
団長と思しき年配の女性が降りてきて、太った男をたしなめた。
けっして若くはないが、彼女の身なりや所作は旅芸人らしい才気と艶で溢れている。
「どうか、イェスを許してあげてください。彼に悪意はないのです。【襲撃者の道】で神経質になっているのです」
「ご心配なく。正規兵だと納得して頂けたようでこちらも安心しました」
俺は、この旅の楽団に南部の情勢を聞いてみることにした。

(つづく)