ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

これが問題の脂。

【パラグラフ305→→→325:狼殺脂地獄:(死亡・3)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 。。。。。。。。。。。。。。。


「なっ、何をするだアァァァァ――ッッ!!!」
「?」
臭いの強烈さに近寄ることもできず、鼻声で怒鳴る俺。
不思議そうな顔でダイスが俺を見ている。
なッッ……何キョトンとしてんだァァ!このファッキンガイド!!俺の鼻を殺す気か!!!
「今すぐそれをやめるんだッッッ!!!」
「どうしてだい?」
「どうしてじゃない!鼻がヒン曲がって穴という穴から愛と希望が飛び出そうな臭さじゃねーかッッ!!!」
顔を見合わせたガイド2人は、やがて何かを納得した顔つきになった。
「ああ、臭い」
「臭いなこりゃ。たしかに臭い」
「この臭さは内閣総辞職級だな。臭い臭い」
「臭さの格付けはどーでもいい!!」
いや、よくないんだけど。全然よくないですけれど。
それ以前に理由を言え―――ッッ!!
「バクナーの脂は最高の凍傷対策なんですよ。体に染み込めば臭わなくなります。本当。本当」
どういう訳かハアハア言いつつ脂を手ににじり寄ってくるフェナー。
その手で俺に触るんじゃあないぜッ!!!



そこで何かを忘れていることに気づく。
一人、足りない。
えーと……誰だっけ………そうだ、リーダーのイリアンだ。
そういえば氷で脳天を強打して気絶中だったような記憶が。
今更ながら助けに行かねばと颯爽と振り向き……目をくわっと見開いたまま鼾をかくイリアンの姿に、正直引いた。
氷の上で大の字になる寝姿がある意味漢らしい。半開きっぱなしの口が俺に何かを訴えかけるかのようだ。
「ああ、イリアン?放っとけば?」
「そのうち目覚めますよ。多分。それより脂塗りませんか脂。固まるともっと臭くなりますから
「…………」




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 。。。。。。。。。。。。。。。



毛皮を剥がれたバクナーの死体。
雪中に鼻を埋め悶絶する12匹の橇犬。
つぶらな白目が素敵なイリアン。
そして、とびっきりの笑顔で獣脂をなすりつけあうフェナーとダイス。
……弱肉強食の北国の縮図、そのものだった。
これが過酷な自然の掟かと感慨に耽りつつ、俺も呼吸を止め、一心不乱にバクナー脂を塗ることに専念する。
確かに、火酒を一気飲みした時のように体が芯から温もってきた。
塗るにつれて嗅覚が麻痺してきたのは結構なのだが、何かが根本的に間違っているような気もする。



―― あ、やっとイリアンが起き上がった。
(つづく)