ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

左下がアンスケーブン

【パラグラフ273→→→103:蜃気楼:(死亡・3)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



只でさえ未知の土地なのだ。安全を図ってホロド盆地へ迂回するルートを選ぶ。
「俺たちの英雄様もカルトは初めてなのかい?まあ、万事任せておきなよ」
「はしゃぎすぎだぞ、ダイス。フェナーの方は準備できたか?」
「終わりました、イリアン……すみません、ローン・ウルフ。憧れていた英雄に会えて、ダイスは舞い上がっているんです」
ガイドは3人。
イリアンは最年長のリーダーであり、フェナーはやや温和、ダイスはもっとも若く人好きのする青年だ。
いずれも熟練の罠漁師で、北の荒野で生き延びる術に長けている。
食料と装備を充分に積んだ2つの橇はそれぞれ6匹の犬に引かれ、広大なリューク氷棚を軽快に滑り出した。
一日目は順調そのものだったが、夜になってカイの第六感が誰かに見張られていると告げる。
翌朝、風が内陸部のそれに変わったのに気づく。
「すばらしい朝だ。ローン・ウルフ、蜃気楼を見てみないか?」
「蜃気楼だって?」
イリアンがテントから顔をだし、嬉しそうに言う。
寝惚け眼に毛皮の寝袋から這い出したところで、俺はその神秘の光景に目を奪われた。
遙か上空に浮かび、揺らめく鏡写しの氷原。あたかも天空の高みへ大地を放りあげたかのような光景だった。
「ここは海から遠く離れていますから」
フェナーが嫌がる犬を橇に繋ぎながら言った。
「他にも『氷映』と呼ばれる幻影もカルトではしばしば起きます。準備を怠って吹雪に巻きこまれ、数キロも運ばれて氷棚で見つかった罠漁師の例もあるんですよ」
「あんたたち罠漁師でも、危ない目にあったりするのか?」
「ええ。私たちは多くの危険に身を晒すことで、生存の知恵を学んできたのです」
彼らの話は実に魅力的で俺を飽きさせない。
その日は一日、氷棚も滑らかで、犬たちは力強く橇を引いた。
澄みわたった大気はどこまでも静謐な輝きに満ち、身を切るような寒ささえ気にしなければ橇から眺める風景は最高だ。
日暮れまでに氷棚から突き出す奇妙な花崗岩の破片『岩』に辿り着き、夜風を避けてキャンプを張った。
一面に広がるすばらしい光景に、俺はこの地の脅威を忘れつつあった。



……極北の荒野カルトは、人の侵入を拒む天然の要害なのだというのに。
次の日(乱数表で3が出た)、俺はそのことを思い知る。

(つづく)