隠し剣孤影抄(ISBN:416719238X)
(藤沢周平、文春文庫)
山田洋次監督が『隠し剣鬼の爪』を映画化するのね。
主演は永瀬正敏、松たか子ですか。
地味な話なので、相当いじらないと時代劇大作とはいかないでしょうね。
まあ前作の『たそがれ清兵衛』にしたってそうなんですが。
ところで唐突ですが、唯一おっかない結末の『暗殺剣虎ノ眼』を以下に抜粋。
「虎ノ眼?」
「闇夜ニ剣ヲ振ルウコト白昼ノ如シという秘剣だと、まだ子供のころに父から聞いた。」(中略)
「その秘剣を習うには、幼児のころから闇の物を見、見えた物に向かって木剣を振るとかいうことを聞いたそうじゃ」
「・・・・・・・・」
「暗夜ノ物ヲ見、星ヲ見、マタ物ヲ見ルとも申したそうじゃ。察するに闇夜の斬り合いに勝ちを得る剣じゃの。虎ノ眼と申すもその意味でござろう」(中略)
夫の声が聞こえた。
「今度はこの草をみる。葉は何枚あるな?」
「八まい」
「よし、だいぶ見えてきた。ではまた眼を星に戻すぞ」(中略)
それは親子がただの遊びに耽っている声のようでもあったが、また暗殺者の家系の血を伝える秘儀の声のようでもあった。膨らんでくる疑惑の中に志野は茫然と立ちつくしていた。
ね?おっかないでしょう。
でもお話は嫁が茫然としているところでおしまい。
むしろ省略というか凝結するラストに、何とも言えない余韻が。