皇帝の魔剣(ISBN:4594044158)

(ペトラ・エルカー他、扶桑社ミステリー)
西暦8世紀から20世紀まで、千二百年もの長い歴史を乗り越え、数奇な運命によって人の手から手へとドイツの地を経巡ってきた一振りの短剣が在った。
柄に嵌め込まれた紅玉や緑柱石が燦然と煌めく見事な造りの短剣・・・。
だがそれは、名誉や喜びを齎す短剣では無かった。
8世紀、ゲルマン諸民族を統一し、強大なフランク王国を築き上げたカール大帝が、バグダッドのカリフ、ハールーン・アッラシードへの贈り物にしようとした時から、短剣には既に、異教徒であるザクセン人の呪詛が込められていた。
以後、短剣は10世紀の修道院から、11世紀の復讐鬼と化した十字軍騎士へ、さらに12世紀から14世紀初頭にかけてゴシック大聖堂の建築に命を懸けた聖堂騎士たちに所有されることとなったが、14世紀半ばにはブランデンブルク辺境伯領の後継者問題を巡る争いの渦中に再び現れ、15世紀には活版印刷を発明したグーテンベルクの工房、16世紀にはルターの宗教改革に沸くアウグスブルクの町、17世紀には三十年戦争の混迷のなかで財を築いた商人の許に現れ、18世紀にはバイエルン城の建築を夢見た職人、19世紀にはナポレオンのロシア戦線に身を投じたドイツ兵へと、目まぐるしく持主を変えていったが、その呪詛は消えることなく力を発揮し、人々に不吉と死を齎し続けた。
長い長い遍歴の涯に20世紀末を迎えたとき、短剣は老人ホームで百歳の誕生日を迎えたある男の古鞄に仕舞われていた。だが、呪詛は消えていなかった・・・。

オムニバス形式の全11話。
特にオススメの第3話『信仰を失った十字軍騎士が、偽りの友を刺殺した話』は、かつての十字軍騎士、ゾンデルスフルトのティアルトの復讐譚。