本文より

・・・かれは血に渇いた魔剣をひきぬこうとしたが、むりだった。そして、いままで剣からうけとったどのようなおののきともちがって、こんどの感触はほとんどやさしく、あたたかく、よろこばしく、妻の魂がかれの中に流れこんできて、かれは涙した。
「ああ、ザロジニア」かれはすすり泣いた。「愛していた!」
(本文p259)

・・・どこかうつろなほほえみを浮かべ、エルリックはもう片方の頬を切り裂いた。血まみれの顔をゆがめ、ジャグリーン・ラーンは死を願ったが、エルリックはほのかな夢見心地の笑みをたやさぬまま、低い声で言った。「おまえはメルニボネの皇帝らをまねようとしたのではなかったか。おまえはその血すじをひくエルリックを嘲り、拷問し、妻をさらった。おまえは、彼女の体を、世界の残りの部分と同じ地獄のかたちにゆがめてしまった。おまえはエルリックの友を殺し、不逞にもかれに挑戦した。しかしおまえは何ものでもない・・・エルリックがつねにそうであったように、おまえも手先にすぎなかった。さあ、虫けらめ、メルニボネの民が世を統べていたころ、おまえのような成り上がりものをどのようにじわじわと責め殺したか、味わうがいい!」
(本文p322)