本文より

セレブ・カーナは、風の精霊を操る者には、恐怖を源とする崇敬の念を抱いていた。風の精霊を操れるものはまれだ・・・そしてそれこそは、エルリックとその祖先のみの握っていた秘術のひとつなのだ。ここにいたって、セレブ・カーナは己の敵が何者かを悟った・・・この世とその彼方から知識をひろいあつめた一万年に及ぶ何百世代もの魔術師らが、その知識をかの白子、セレブ・カーナの殺そうとしていた男に伝えたのである。ここで初めてセレブ・カーナは己が所業を悔いた。しかし・・・時すでに遅かった。
(本文p61)

・・・愛も平安も復讐の思いすらも、<新王国>のこの古き時代の上にたれこめる暗鬱な空を翔けゆく、荒々しい騎行の中に忘れ去られた。典型的なメルニボネ人であり、己が不全の血すらメルニボネの魔道皇帝の血統につらなることを誇らしく、またいまわしく思うエルリックは、すべての思いより解き放たれつつあった。
いまや従うべき絆も友もなかった。かりにかれを占めつつあるのが邪悪なるものであったとしても、それは純粋な輝かしい悪、人の世の営みに汚されぬ悪であった。
(本文p184)