プロローグ

nacht_musik0001-00-00

これは、エルリックが“従妹殺し”の異名をとり、メルニボネの崩壊がおこる以前の物語である。これは、エルリックと従弟イイルクーンとの対立の物語であり、従妹サイモリルとの愛の物語でもある。やがて、その対立と愛は<新王国>の侵略を招き、<夢見る都>イムルイルを炎の中へと瓦解させてゆく。これはまた、二本の黒の剣、ストームブリンガーモーンブレイドの物語であり、それらがいかにして見つかり、エルリックとメルニボネの運命に、いかなる役割を果たすかを述べた物語でもある。エルリックとメルニボネ、それは、より巨大な運命、世界の運命をも司る。これは、エルリックが、一万年にわたり世界を支配してきた半人類の王として、そしてかれらの艦隊や竜の指揮者として君臨した時代の物語である。
このメルニボネの物語、竜の島の物語は、悲劇でもある。とほうもない規模の葛藤と、気高き野望の物語。魔術と裏切りと、価値ある理想の、苦痛と恐るべき歓喜の、苦き愛と甘き憎しみの物語である。
これは、メルニボネのエルリックの物語。エルリックはその大半を、悪夢の中でしか回顧できぬであろう。
(1巻本文p13)